天界は色々と面白い。
空の色がピンクになったり黄色になったりするのも面白いし、二階の窓から落ちてふわりと着地するのも面白い。中でもテヒョンにとって一番面白いのは館の庭の片隅に漂いながら入ってくる黒いもやだ。それは、ちょうど今、低く漂いながらテヒョンのそばに漂着している。
テヒョンは、ゆっくりと手を伸ばして掴んだ。
もやは、テヒョンの手の中で怪しい光を点滅させながらふわふわと回転している。暗い光は彼に語り掛けてきた。
「イキテイタイカ?」
「いいや、不安と苦痛しかなかったから、嫌だよ。」
「ナラ、チカラをテニイレロ。シハイシロ。イマイキテイルヤツラヲ、クルシメロ。」
テヒョンは肩をすくめた。
「苦しめるのはちょっと。」
「チュウトハンパダナ・・・」
もやは最後に薄く光って消えた。
テヒョンにはわかっていた。メッセージはすべて悪魔からのものだと。
最初は好奇心で手を伸ばしていた。そして、メッセージにこもる悪への誘惑を、面白がって聞いていた。今もまだ面白がっているだけ、のつもりなのだが・・・・。
「テヒョン・・・。」
後ろから肩を叩かれて、テヒョンははっとして振り返った。ナムジュンだ。
ナムジュンはテヒョンの様子をじっと見た。
「お前、何だか黒くなったな。」
「黒い?」
テヒョンは自分の頬を撫でた。色は白いはずなのに。
ナムジュンは首を振った。
「見た目じゃない。全体的に、なんていうか雰囲気が黒くなった。」
テヒョンはにやりと笑った。
「何も持たない白より、すべてを飲みこむ黒の方がいい。その方がかっこいいじゃん?」
「そうかもな。」
ナムジュンはテヒョンの言葉を軽く受け流した。
「どうしたの?なんで俺を探しに来たの?」
「ああ・・・。なんかさ、ジミンとホソクも何かあったみたいなんだ。」
「何かあった?」
「そう。ユンギとグクが、少し前に様子が変わっただろう?影が薄くなって、彼ら俺達に何か隠しているような雰囲気で・・・。」
「ジミンとホソクも同じ状態になったってこと?」
ナムジュンは頷いた。
「そう・・・・。ナムジュニヒョンは、どう?」
「どうって?」
「生き返りたい?」
ナムジュンは顔をしかめた。
「あの貧乏な暮らしにか。どうだろうな・・・。ここでは本も好きなだけ読めるし、何の不安も心配も無い。俺達を馬鹿にして軽蔑の目を向けてくる奴らもいないし。」
「だよね?俺もそうだよ。」
テヒョンは空を見上げるとつぶやいた。
「シハイシロ・・・か。」
「ん?支配?何のことだ?」
見上げた灰色の空に、黒い雲が流れて行った。