「やっぱ、ジニヒョンは頭がいいんだな。一緒に来てもらって本当に良かった。」
「ユンギ、それ言うのもう三回目だよ。」
僕は苦笑しながら、お湯の入ったカップ麺の蓋を開けた。もう、出来る頃合いだ。
僕達三人は、今コンビニでお昼を食べようとしている。
ジョングクはキンパを口に運びながらも少し寂しそうな顔をしていた。愚かで冷たい男だが、子供の頃から一緒に育った仲だ。縁を切ってしまったことに、複雑な気持ちなのだろう。
僕はペットボトルの口を開けてジョングクの前に置いた。ジョングクは気づかないでぼんやりしたまま、キンパを食べ続けている。
ユンギはその様子を目で捉えると、ジョングクの肩を抱いた。
「お前には俺、ナムジュン、ホソク、ジミン、テヒョン、ジニヒョンと6人の兄貴がいる。俺たちがお前の家族だよ。」
ジョングクは少し笑った。
「ヒョン、ありがとう。でも今はちょっと何とも言えない気分だ。これで縁が切れたと思うとほっとする気持ちもあるんだけど・・。」
そう言うとため息をついた。
「でも、本当に縁が切れたのかな?家族だから、縁は切りたくても切れない気がするけど」
僕は頷いた。
「ふつうはそうだね。でも、あの誓約書を破ったら、罰が恐いんだよ。君のお兄さん、破らなければいいんだけど。」
ジョングクとユンギは首をかしげた。
「あれって民事的なものじゃなくて?刑事罰を受けるの?」
ユンギの質問にどう答えるか一瞬悩んだ。
「まあ、契約書と同じだから裁判になれば何かあると思うんだけど・・」
天使が見守る中で取り交わした誓約書を破ったら地獄に落ちるとは言えない。僕はもごもごと答えてごまかした。
「あの人が破ることは無いですよ。検事で、社会的に立派な地位にいる人が、僕みたいに底辺にいる弟に近づく訳が無い。」
ジョングクはそう言って又ため息をついた。
「それにしてもジニヒョンが僕達を対等に扱ったことで、あの人相当怒っていたみたいだったな。」
ジョングクは兄を「ヒョン」と呼ばず「あの人」と呼んだ。
僕は首を振った。
「ジョングガ、全然対等じゃないよ。お前の方がはるかに上だ。だから、僕、本当におかしくて笑ってたんだよ」
「おかしかった?」
「彼は嘘をついたりだましたりしてこれまで生きてきたみたいだ。多分自分自身に対してさえも嘘をついている。自分は世話になった家族を踏み台にして成功した、心の奥ではそう感じているくせに気づかないふりをしているんだよ。それに彼の基準は人に偉いと思われるかどうか、それだけが大事みたいだ。」
ニ人は黙って僕の言葉に耳を傾けている。
「だから自信を持つんだよ。グクだけじゃない、ユンギもそうだ。」
「おれ?」
「そう、ユンギもそうだ。二人とも誠実に生きている。」
ジョングクはまばたきもせずに僕を見ている。でもユンギは俯いてしまった。
「二人とも、自分自身を信じて。自分を愛していて。」
ジョングクはにっこりと笑った。ユンギは黙ってうなだれている。
僕は再びグラスに光がきらめくのを見た。
ソウルのとある街の裏通り。
ビルに挟まれたその細い路地はじめじめと薄暗く、乱雑に投げ出されたゴミ袋の山からは臭気が漂っている。
そんな暗い場所で一人の男が人目を気にしながら立っていた。帽子をかぶってマスクをしているその男はジョンウォンだ。中々相手が来ないらしくてイライラしている。
「よお。検事さん待たせたな。」
現れたのは見るからにやくざっぽい外見のスキンヘッドの男だった。真っ黒いスーツに紫色のネクタイをしめている。そして、 後ろに同じくらいうさん臭い男を従えていた。
スキンヘッドは振り返ると軽くしっしっと追い払う手の動きをした。
「ベセル、お前ちょっと下がってろ。」
ジョンウォンは冷たい目でスキンヘッドを見た。
「ベセル?変な名前だな。外人か?」
スキンヘッドは首をすくめた。
「知らねえよ。どうせ本名じゃねえだろうし。ところで要件は?」
ジョンウォンはスキンヘッドに写真を見せた。
「ジェス、こいつはお前のグループから覚せい剤を買っているだろう?」
スキンヘッド―ジェスは写真をじろりと見ると眉間にしわを寄せた。
「大丈夫だ。私はお前の味方だ。」
ジョンウォンは低く笑った。
「こいつが薬をやっていること、警察がつかんでいる。わかるな?こいつが捕まると、あんた達も危ないんだ。警察で入手経路を吐かされるからな」
ジェスは相変わらず何もしゃべらないまま、鋭い目でジョンウォンを見つめ続けている。
「情報はありがたいが、何のために俺達にそれを教えるんだ?」
ジョンウォンは淡々と話した。
「俺達は持ちつ持たれつだろう。それにこいつはとっても邪魔なんだ。」
「知り合いか?」
「弟の幼なじみだ。俺も子供時代から知っている。」
「あんたの貧乏時代を知っているなら当然邪魔だろうな」
ジョンウォンは返事をする代わりに肩をすくめた。
「もしかしてあんた、弟まで消そうとしているのか?」