紙には、館にいる六人の人生についてが詳細に記されていた。

そして書かれている内容は、僕が最初に指示を受けた六人の最期とは全く違うものだった。

そこには苦労しながら大人になり、結果的には豊かな人生を送ることになる、それぞれの長い人生が書かれていた。

紙を持つ手が震えた。

 

 六人は、まだ死ぬべき時ではなかったのだ。

 

「何故、彼らの魂を連れてきた。それに何故彼らなんだ?」

 ベセルはしゃべろうとしたが、身体を相当な痛みが襲ったように身もだえさせた。

 アプラクサス神が、聖なるロープで身体を締め付けたらしい。神聖な縄が身体に食い込むことでこんなにも苦しむとは、ベセルは相当に悪に染まってしまっているらしい。恐らく触れるだけでも痛いに違いない。例えば僕がこのロープに触れても痛くもなんともないはずだ。

 

「ベセルトアクマタチハ ジュンスイナタマシイヲモトメテイルヨウダ」

「純粋な魂?」

 僕はテヒョンのきれいな目を思い出した。

「アクマタチハ ホカニモタクサン ツレテクルツモリダッタ」

 僕は六人の悲しい最期を思い出して怒りに震えた。

「何故彼らのような若者を選んだんだ?悪事をおかして死んでいった人達でも仲間に引き込めばいいだろう」

「ジュンスイナタマシイハ パワーガツヨイ。」

 僕はアプラクサス神をまっすぐに見つめた。

「彼らの・・僕の館にいる六人の人生を返してあげてください。今すぐに。」

 

 アプラクサス神はすぐには答えなかった。

―お前にも緩みがあった。見逃したな?いくつもの兆候を。

 アプラクサス神は又、僕の頭に直接語りかけると、片方の羽をざっと広げた。

僕の目の前にスクリーンが広がった。

 

ジョングクが道路を歩いている。

ユンギのパーカーを着て、彼に成りすましたグク。

猛スピードで黒い車がグクに向かって突っ込んでいく。

そして車の助手席でベセルが静かにほくそ笑んでいる・・・。

 

 僕の手から紙が滑り落ちた。

 

次に見えたのはジミン。

嫉妬と友情に挟まれてのたうち回るようにして苦しんでいる。

ジミンの耳元で囁く声。嘘をつくよう誘惑するそのささやき声はベセルの声だ。

 

 大橋で倒れていくホソクをのんびりと見つめる男。

 

 テヒョンからの電話を受けられないようにナムジュンの邪魔をした男。

 

 海に飛び込むテヒョンを遠くでげらげら笑いながら見ていた男。

 

 皆ベセルの目をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スクリーンが閉じられて、僕はショックで座り込んでしまった。

情けない。自分には防げたかもしれないのに。

 

 アプラクサス神は広げた羽を降ろした。

身体が揺れる。

 僕は神の傷だらけの身体を見た。

悪魔との戦いは危なかったのだろうか。

 アプラクサス神は僕の考えを読んで、頭に直接返事をくれた。

―そうだ。悪魔たちの勢いが強くなっているからだ。ベセルを連れて戻る事は非常に困難だったのだ。大天使ミカエルの助力があっても、だ。

 アプラクサス神は目をつむった。

―おかげで私は悪魔と取り引きをしなければならなかった。

 

 取引?

 

オマエタチニメイジル。」

僕は呆然としたまま、アプラクサス神を見つめた。

 今、アプラクサス神は神としての力を行使しようとしている。

「ジカンヲ モドス。ジンハ カレラヲスクイナサイ。デモ テンシトシテノ ノウリョクハウシナウ。ニンゲンノカラダニモドサレル。キオクハノコス。」

「そんな!それでどうやって彼らを救うんですか?」

「コレハ オマエノシレンダ。」

 僕はベセルを目で指示した。

「こいつは?堕天使であっても能力は天使のまま?また人間界に放たれるの?」

「ベセルモオナジダ。ニンゲントシテトキハナツ。」

アプラクサス神は、羽を動かして、空中に輝くサインを浮かべた。

「ジン。モシ スクエタラ カレラトトモニ ソノママ シアワセニ ニンゲントシテイキヨ。スクエナイナラ オマエハジゴクニオトサレル。」

 僕は目をつむってうなだれた。

なんてことだ。もし地獄に落ちたら、しばらくはそこから出てこれない。

 散々苦しみぬいた後にしか、転生できないのだ。しかも地獄の後の人生は最下級なものに決まっている。

 

 打ちひしがれた僕の身体に、輝くサインがすーっと近づいてきた。

サインは一瞬強い輝きを放った後、僕の身体にくっついた。

 これでもう逃れられない。