どれほどの時間が経っただろう・・・。

「俺、は」
やがて蒼迦が苦しそうに言葉を紡ぎ始めると、緋冴と青藍、そして寝た振りを続ける咲良は固唾を飲みながらその言葉を待つ。
「世に有る他の美姫など――――――要らぬ」
「蒼迦・・・・・」
「見えないんだ、緋冴!俺には、俺には流迦しか見えん!」
頭を抱え込みながら叫ぶ、蒼迦の悲鳴。
その声に咲良は溢れる涙をもう止める事は出来なかった。
ゆっくりと目尻から流れ落ちる涙を拭う事すら出来ず、咲良は静かに瞳を開く。
涙のせいで霞む天井を見つめながら、留める事が出来ない涙をそのままに、咲良は嗚咽を堪えた。
―――――解っていた。
ええ、そうよ、解っていたわ・・・・・。蒼迦さまが私を選ばない事くらい・・・

「蒼迦、落ち着け」
「緋冴に、解るのか、俺のこの苛立ちを・・・・・誰よりも愛していた、流迦を・・・・あっさりと、お前の弟が・・・・」
蒼迦の言葉には言い様の無い悲しみと怒り、そして悔しさが籠っている。
緋冴は静かに蒼迦の肩を抱き、蒼迦の身体を抱き締めた。
「蒼迦・・・・」
「解ってる、解ってるさ・・・・ただの八つ当たりだって事は。済まん、済まない、緋冴・・・・」
「良いんだ、解ってる。済まない、私がもう少し経験が有れば、もっと気の利いた事をお前に言ってやれるのに――――」
「―――――――」
「蒼迦――――――」
ぎゅ、と緋冴が強く蒼迦を抱き締めると、蒼迦の肩が大きく震えた。
そのまま小さく上下する。

大事な幼馴染の泣く姿をただ静かに抱き締めながら、緋冴の瞳に小さく涙が浮かび上がって行く。
どうしてやる事も出来ない自分。
蒼迦の苦しみも、言い様の無い嫉妬も、自分では溶かしてやる事は出来ない。

『緋冴さま』
「青藍。この事は内密に頼む・・・・・」
『―――――は・・・』
青藍の小さな頭が小さく項垂れるのを見ながら、緋冴はただ蒼迦を抱き締め、そして既に起きてこの話を聞いているだろう咲良の心中を思った。
咲良が蒼迦に憧れを抱いている事は前回の宴ではっきりと感じた。
蒼迦だけでは無い、咲良にとってもまた今回の事で心を痛めただろう・・・。

咲良の為に蒼迦を呼んだのは間違いだった。
2人を傷付けてしまったのだ・・・・・。
緋冴の心は重い鉛を付けたかの様に深く沈んで行った。



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