朧の妖しげな微笑みを受けながら、龍迦は一瞬口を閉ざした。

――――――――本気では、無い。
瞬時にそれを察し、そして龍迦は徐に神酒が満ちた杯を飲み干した。

「闇姫さま」
「飲んでしまったの?飲ませて、とお願いしたのに」

含み笑いを浮かべる朧を見つめながら、蒼迦の心は粟立ち始めていた。
変な嗜虐心、と言うものなのだろうか。
この自分を貶めたい、そんな可愛らしい彼女をやり込めてやろうか・・・・そんな感情が龍迦の心に芽生え始めた。
だが、その気持ちを心の奥底に沈めようと考えながら、蒼迦は優しく朧に新しい神酒を注いだ杯を差し出した。

「闇姫さま」
「嫌よ。飲ませて頂戴」
こうやって彼女を見ると、こちらが慌てふためくのを楽しんで見ている節がありありと見える。
今までは、彼女の色香や見事な肢体に隠れ、見えなかった。いや、龍迦自身、それを見なかったのかもしれない。
こうやって見ると、やはり流迦と似ている。
本当の闇姫は実は流迦と良く似て素直な感情を露わにする女性なのかもしれない。
いや、きっとそうなのだ・・・・・。

龍迦の黙り込み、じっと考え込む姿にしびれを切らしたのか、朧は尚もその身体を龍迦にすり寄せた。

「ねえ、聞いてるの」

朧の濡れた瞳に見つめられながら、龍迦は朧を真正面から見つめ返した。
その真剣な瞳に朧が逆に瞳を逸らすまで龍迦の瞳は真っ直ぐに朧を見る。

龍迦の視線は嫌味なほど真っ直ぐに朧を見る。ただでさえ眉目秀麗な龍迦の真剣な瞳は朧に何の感情も抱いてはいない。そこには朧の色香に対する媚や諂いも微塵も感じる事が出来ない。
堪らず視線を逸らした朧の表情にひっそりと羞恥の色が走るのを、龍迦はハッキリと見て取った。
「闇姫さま」
「つまらないわ――――――もう、出て行って頂戴」
「・・・・・・貴方は」
「出て行って頂戴!」
「どうしてそんなに―――――――」
尚も言葉を続ける龍迦を、朧は睨み付けながら叫ぶと龍迦の頬を大きく打った。
「聞こえなかったの、王子。出て行って!」
華奢な身体を震わせて、まるで悲鳴を上げるように叫ぶ朧の細い腕を龍迦は掴むと、その大きな身体で朧を抱き締めた。
「貴方は、一体何を抱え込んでいるんだ」
「――――――ッ・・・は、離して。離しなさいッ」
龍迦の身体の中でもがく朧の華奢な身体。その背中を龍迦は宥める様に撫でる。
「・・・・・こんなに男慣れしてない貴方の目的は何だ?蒼迦や私と結婚したいと言って来たのも嘘だろう?」
「何をッ!離せッ!」
「――――――結婚したい、と言って来たのなら、私が貴方に手を出しても良い訳だ。そうでしょう?」
ハッと朧は驚いた顔で龍迦を見た。
「そんな・・・・」
「貴方が誘って来たんだ」
龍迦の言葉に朧は一瞬怯えた表情を見せ、そしてまたも龍迦の腕の中でもがく。
「安心なさい。貴方は確かに魅力的だ。そう、外側はね。だけど、貴方に手を出そうとは思わない」
そう、自分を好きでもない彼女に手を出すなんて有り得ない。
ただ――――自分の腕から逃れようとする彼女が可愛らしいと思うのもまた事実で、龍迦はそんな相反する自分の心に苦笑いを浮かべた。