ふ、と重い瞼を開けると、冷たい手が額に当たる。
―――――気持ち良い・・・・

朧がゆっくりと意識を取り戻して行くと、額の手がピクリ、と動いた。
「起こしてしまいましたか」
「・・・・・・・」
思いのほか優しい声で囁くのは風の王子、龍迦だ。
思わず眉を顰めると、慌てる事無く、その手が朧の額から離れた。

「ほんの少しの間でしたが、良く眠っておられましたよ」
「・・・・・・そう」
「ああ、まだ身体を起こさない方が良い。貴女の気は随分弱ってる」
労わる様に声を掛ける龍迦を軽く睨み付け、体を起こそうとすると、龍迦の言う通り、体中に力が入らない。
「――――――」
「言ったでしょう」
相も変わらず優しい口調でさりげなく朧の体を支えながら、龍迦は思わず差し伸べた手で朧を横たえた。
「さ、もう少し休んで下さい」
「――――――目が覚めたのは貴方のせいでは無くて?」
「それはすみません。熱を測ろうと思ったのです・・・・そう、昔妹が良く熱を出したのを思い出したもので」
「貴方の可愛い妹姫・・・・・ね」
龍迦の口調は優しさを含んだままだったが、明らかに朧の口調には棘が有った。
じんわりと口の端を上げたのも意味深だ。
「私は貴方の可愛い妹では無いわ」
「――――――そうですね、貴方は、貴方だ。言い方が気に食わなかったなら謝罪します」
龍迦は柔らかい視線を崩す事無く、朧に微笑んだ。
その変わる事が無い表情に何故か朧は苛立ちを感じ始めたのか、きつく龍迦を睨み付けると、そのまま身体に張り付いたままの布を握り締める。

「闇姫さま、何か欲しいものは有りませんか?」
「欲しいもの?」
「そう、例えば神水とか、ああ、寒くは無いですか?」
自分を労わる龍迦に心の中で舌打ちを続けていた朧は不意に何かを思い付いたかのように龍迦に妖艶に微笑むと、そのふくよかな唇を開いた。
「そうね・・・・・欲しいもの、有るわ・・・・」
「取って来させましょう。何ですか?」
「――――――ふ、そうね、まずは神酒が欲しいかしら・・・・それから着替えを」
朧の言葉に龍迦は頷くとすぐに女官を呼び、準備をさせた。
着替えと神酒を用意した女官は寝台の上に起き上がる朧の鋭い視線に気圧され、縮み上がってしまっている。
龍迦は溜め息交じりに縮み込んだ女官を下がらせると、朧を困った様に見つめた。
「闇姫さま、女官が居なければ着替えも出来ませんよ」
「あら・・・・・・必要無いわ?」
龍迦の呆れ顔に朧はくすりと微笑むと、指先で神酒を差した。
「貴方が注いで頂戴」
そうして龍迦が注いでくれた杯を受け取ると、徐にそれを一気に喉に流し込む。
その空いた杯に龍迦がまた神酒を注ぎ込むと、朧の指先が龍迦の指先に絡み付けられる。
「貴方も飲んで」
「闇姫」
困った表情の龍迦に無理に杯を押し付けると、首を傾げ、微笑む。
「力が入らないわ・・・・・ねえ、そのまま口移しで飲ませて頂戴」


朧ッ!
ちょっと良いな・・・・