大きく息を吐き出すと、心なしか身体が軽く感じられる。
蒼迦は何とか身体を伸ばすと、傍らに立つ母の顔を見た。
微笑みを湛えながら蒼迦の背中を軽く叩く綾迦の顔は変わらず優しい。
「母上」
「蒼迦よ―――――最近鍛練がなっておらんぞ?全く・・・・・」
「は・・・・・・」
「ここがな」
トン、と綾迦は蒼迦の胸を叩くと、蒼迦はグッと唇を噛み締めた。
「他人を貶める事や、自身を驕り高ぶるなど――――――恥ずべきことだ」
綾迦の言葉に蒼迦は項垂れると、小さく頷く。
「――――――気持ちが解らんでも無い。だが、受け入れる事もまた大事・・・・蒼迦、私は、『流迦が望むなら』と言ったはずだ。流迦が選ぶ男に間違いは無いと、何故信じてやれんのだ?私は自分の娘を信じている。だからこそ、あの時龍迦とお前にそう言ったのだがな・・・・・」
「母上・・・・・・―――――――しかし、私には」
「蒼迦。愛するだけが大事では無い。愛されることも大事なのだ・・・・・いつになればそれがお前に解るのだろうな」
ほんの少し、綾迦の微笑みが哀しみを浮かべると、慌てて青藍が綾迦の肩に飛び移って来る。
『風矢さまッ』
「解っておるわ――――――全く煩い奴め・・・・・」
煩わしそうに青藍の頭を撫でると、綾迦は呆れた様に瞳を閉じた。
『本当ですかね?全く風矢さまは目を離すとこれだから』
「・・・・・・お前は燦の傍にでも行ってろ。親子の会話を邪魔するな」
『何が親子の会話ですか・・・・蒼迦さまには後で私からキッチリお説教です。全く―――――誇り高い風の王子ともあろう方が嫉妬で身を焦がすなど・・・・・これも青藍の教育が悪かったからでしょうかねッ』
険を帯びた口調で青藍がよよよ・・・とわざとらしく身を震わすと、蒼迦は慌てて青藍の背中を指先で撫でた。
「す、済まない、青藍。私の修行が足らんのだ。決して青藍のせいでは無い」
『いいえッ!小さい頃から男子とはこう有るべき、とお教えして来たのに、これですからねッ!良いですか、蒼迦さまッ。今までは青藍も目を瞑って来ましたが、今回はそうは行きません。今日は一日お説教させて頂きますからねッ!!!覚悟する様にッ!』
「う、うん、解った・・・・」
小さく何度も頷きながら蒼迦が焦った様に答えると、そんな蒼迦をジロリと青藍が睨み付ける。
「いや、はい・・・・解りました・・・・・」
睨み付ける青藍の瞳に蒼迦が言い直すと、青藍は満足気に頷き、蒼迦の肩に飛び移った。
『さ、まずは咲良さまの所です。道々、ゆっくりとお話させて頂きますからねッ。ああ、流迦さま。流迦さまは蒼迦さまのお説教が終わった後にお説教です。燦さまはその後。念のために申し上げますが、涼さま、鴻さまも同様です。ま、喧嘩両成敗と言うことです。では蒼迦さま、参りましょう。はい、チャキチャキ歩くッ!』
青藍はそう言い捨てると、蒼迦の肩の上で飛び跳ねた。
「はい・・・・・」
そんな青藍の言葉に蒼迦は少し項垂れながら綾迦に会釈すると、そのまま振り向かず、部屋を出た。
そんな蒼迦の姿に、ホッとしたような、しかしやはり寂しさを流迦は密かに心に感じてしまう。
そんな流迦の心を知ってか知らずか、燦は流迦の背中をそっと押し出すと、驚く流迦に悲しそうに微笑んだ。
そして小さく「ごめん」と呟くと、足早に流迦から離れ、灼鳴に近寄って行った。





次回、青藍の説教は続く(笑)
燦くん、おかーさんはあなたのヘタレっぷりが大好きよ!