「鴻のやつ・・・何考えてるんだ」

「――――――」

鴻が緋冴を連れ、姿を隠した後、涼はその場にしゃがみ込んだ。

「涼さま・・・」

いたわる様な声音で咲良が涼の傍らに立つと、同じようにその場にしゃがみ、涼の悲しげな顔を覗き込んだ。

「鴻さまは無体な事をなさる方では有りませんわ」

「解ってる・・・だけど」

「さ、元気をお出しになって。緋冴さまをお迎えに行って下さい、燦さまとともに」

「え?俺もッ???」

驚いた声で燦が声を出すと、咲良は静かに微笑んだ。

「当たり前です、燦さま。その間に私たちは温泉なるものに入っていきますわ・・・・まさか、ご一緒に入るおつもりでは無いでしょう?」

にっこりと微笑みながら言葉を続ける咲良の瞳は笑ってはいない。

さっさと行け、と言葉に出さずに告げるその瞳に、思わず燦は頷いた。

そして涼の身体を抱えるとその場を走り出す。

そんな2人をぽかんと見つめていた流迦に咲良はやっと笑顔を向け、小さく舌を出した。

「ごめんなさいね、流迦――――だけどさすがに裸で燦さまと私が一緒に入浴は出来ないでしょう?」





緋冴を連れた鴻は温泉が湧き出る近くの木陰に2人、座り込み、他愛も無い話を続けていた。

鴻は思いの外話が上手で、緋冴はその話にいつしか引き込まれ、時には笑い声を上げ、時には神妙になりながらその会話を楽しんでいた。

鴻の話はだいたいが自分の事の様に感じたが、やはりそれは涼の話で、幼い頃の話や姉の話、もしくは水宮での話が主だった。

そのせいかは解らないが、緋冴の涼に対する気持ちも些少の変化が起こりつつ有った。

涼のあの無表情に見せる訳や、時折見せる優しさが不器用な訳も。

異性に対しての接し方にしても。

その全てに理由が有り、そして今が有る。事細かく色々な事を教えてくれる鴻に、緋冴は知らず友情を感じはじめていた。

「水の王子・・・・・あなたは優しい方だ」

話が途切れた頃に、ふと声に出してそう呟くと、鴻は照れながら首を振った。

「あいつは、さ。ちょっと走っちゃう所が有るんだ。だけどさ、それを姫さんに解って貰いたいだけなんだ―――――、その、迷惑じゃ無ければ、だけどさ」

「迷惑なんて・・・・ただ、戸惑ってしまうんだ」

「それで良いんだよ。――――――さっき、俺が言ったこと覚えてる?双子は好きな相手も似てるって言った時、姫さんは全く気にもして無かった。・・・・それが俺と涼と。姫さんの気持ちの正直な答えだよ」

鴻の言葉を緋冴は頷きながら聞く。

「自分に正直になるって、難しいもんだよ。姫さんが難しいんだ。俺だって、燦だって難しいに決まってる。だけど、どこかで踏みだすのも、大事じゃ無いのかな、きっと」

「王子・・・・いや、鴻どの・・・・」

「どのッて!!やめてくれよ、恥ずかしい。呼び捨てで良いよ・・・・」

照れた様に首を振りながら赤くなる鴻の手を緋冴は手に取ると、嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとう・・・・鴻・・・。涼とちゃんと話してみるよ」

「おう、そうだ。それでこそ姫さんだ。(惚れた男に)素直になるってのは良い女の第1条件だぜ?」