ニコニコ・・・

ニコニコ・・・・

気のせいじゃ無い。

流迦と咲良の微笑みは間違い無く自分と涼に向けられている。

それは嫌味、までは行かないが、どうにもこうにも居心地が悪い。

だが、それを制した所でこの2人は止める事は無いだろう。


温かいお湯が流れ出るその、温泉なるものに辿りついてから、流迦と咲良はひたすら嬉しそうな笑みを向ける。

目が合ったら何を言われる事だろう。

しかも、先程から鴻が自分の傍を離れない。

それに対する涼の目付きの鋭さにも相当緋冴は辟易していた。

―――――――全く。

見れば燦はどこ吹く風で温泉に手を入れて遊んでいる。

使えない弟め――――――

涼に好意を持たれている、その事は良く解った。

嬉しく無い訳では無い。

正直、女として嬉しく無い筈は無い。

ただ―――――――自分が誰かを好きになる、と言う感情をまだ理解出来ていないのだ。

それに、あの美しい涼が自分の事など――――そう考える自分も確かに居た。

からかわれているのだ、きっと。

涼に触れられた箇所は確かに熱かった。

胸が高鳴るのも良く解った。

だが、それが涼に対してなのか、それとも、初めての経験だったからなのか・・・・

それはまだ解らない。

涼と同じ顔を持つ鴻にももしかしたら胸がときめくのかもしれない・・・

そう考えると、緋冴は知らず溜め息をついた。

いずれ自分は誰かに嫁ぐのだ、と考えた事も有る。

だが、咲良や流迦、宵の様にすこぶる美しいと言う訳でも無い。

実際、緋冴も他の姫に劣る事無く美しいのだが、それは自分では解らないのだろう。

誰かが自分を娶ってくれる等と、考えた事も無い。

政略結婚になるのだろうな、とおぼろげに考えていただけだ。

あの父の事。きっと相応しい男を探してくれるだろうと、信じて疑わなかった。

だからこそ、自分が誰かに恋をするなどと考えなかったのかもしれない・・・・・・・・

「姫さん、あっちが綺麗だから、行ってみよう」

不意に考え込んでいる緋冴の腕を鴻が取ると、そのまま引きずる様に走り出す。

「え、ちょ」

そう言いながら、鴻がほんの少し手を翳すと、鴻と緋冴の後方に水の霧が出来た。

向こう側はもどんどんと掠れ、見えなくなって行く。

「鴻ッ!!!!!」

霧の向こう側から慌てた様な、怒声が緋冴の耳に聞こえてくる。

涼の声だ。

余り声を荒げ無いその大きな怒声が緋冴の耳、そして胸に響いた。