緋冴は涼が触れる場所から逃れようと何度も身を捩る。
何で、そんなに嫌がるの、と少し哀しくなりながら嫌がる緋冴の身体を抱き締めると、緋冴の動きがぴたりと止まった。
胸元で小さく震える緋冴の身体を感じる。
「姫―――――――」
おずおずと涼が声を掛けると、いやいや、と首を振って答えない。
「姫」
「――――――何でこんな、」
「何で?」
緋冴の言葉に思わず声を荒げて涼は強く緋冴を抱き締めた。
思いがけずに強く抱き締められると、一瞬息が止まってしまう。
それでなくともこんなに強く異性に抱き締められたのは父親以外に無い。
「―――――どうして、解ってくれないの」
絞り出すように涼は緋冴の耳元で囁くと、苦しげに端正な顔を歪めた。
「どうして?何で解らないの」
「や、め、」
「僕が誰にでもこんな事すると思ってるの」
そう言って、緋冴の顎を掴み自分の方へ向かせると、その柔らかい頬を両手で掴む。
「からかってなど、いない。僕は、僕はただ―――――――」
涼の真剣な瞳の煌めきに思わず視線が泳ぐ。
鼓動ははちきれんばかりに高鳴り、胸の奥が熱くなって来る。
「姫、お願い、僕を見て・・・・」
苦しげにそう呟く涼の言葉を他にどう取れば良いのだろう。
「王子――――――」
やっとの思いで緋冴が涼と視線を絡ますと、涼は緋冴の唇にそっと指先を触れた。
「姫」
そう言って涼がほんの少し首を傾げて緋冴の顔に近付いてくると、緋冴は堪らず瞳をきゅ、と閉じた。
だが―――――・・・・
「姉上―――――――!!!!!」
不粋な声が遠くから風に乗って聞こえて来る。
慌てて瞳を開けると、不機嫌さを露わにした涼の表情が見える。
あ、燦・・・・。
「―――――全く」
「燦・・・・なのか?」
「流石に姉思い、なのかな」
「・・・・」
「嫌な思いさせてごめんね、姫」
そう呟きながら息を吐き出す涼がほんの少し子供っぽくて、緋冴は首を振る。
そうしてから緋冴は赤くなりながら、涼に問い掛けた。燦がここまで来るにはまだ時間が有る。
「その、王子は、その・・・・私の事を・・・」
「姫の事を?」
「からかって、無い、って」
ああ――――――と涼は嬉しそうに微笑むと、緋冴の頬に軽く口付けた。
「――――――――ッ」
「これから、だね、姫。もっと解らせてあげる」
「何を、何を解らすのッ」
「・・・・良いね、それ。僕の前ではそうやって女の子の話し方でいてね?ああ、他の人には今まで通りでね?姫が僕の事ずっと名前で呼んでくれないのも、それで許してあげるから」
にっこりと微笑みながらそう言いのける涼はまた緋冴の頬に口付けると、そっと耳元の装飾を嬲った。
「これ、どうしたの」
「それは綾迦さまから・・・・」
「片耳だけ?」
涼の問い掛けに緋冴は小さく頷く。
「じゃぁ、このもう1つの耳に付けるのは、僕が贈ったものにしてくれる?」
「いや――――やっと、追い付いた。おい、涼!姉上に変な事してないだろうなッ!」
「変な事?聞き捨てならないな。それに、燦だけには!それを言われたくない」
「お前らな・・・・付き合わされる俺の身にもなれよ」
燦と涼、そして鴻はお互いに軽口を叩きながら温泉へと向かっていた。
燦側には流迦と咲良も乗っている。どうやら燦が全員を迎えに行ったらしい。
涼に騙された、と解ると、緋冴はさっさと涼を燦の火竜に蹴り落とし、燦側が人数オーバーになるので、鴻を緋冴側に乗せ、無言で火竜を駆け続けている。
そんな緋冴の背中を見つめながら、鴻はやはり溜め息をつく。
「何で俺、こんな役回りなんだよ・・・・」
さて、どうなる温泉紀行!