「穢れを完全に拭い去る事は、出来るのか、煌」

「案ずるな、焔。―――――まずは邪魔な奴らをここから出してくれ。気が散る」

焔の問い掛けにはっきりと答えた煌に焔は頷くと、綾迦に視線を投げた。綾迦がその視線に頷き、部屋の中を見回した。

「外へ出なさい・・・・緋冴、咲良はもう大丈夫だ。どこか休める処へ。燦、もうじき龍迦や蒼迦が来る。流迦を起こして来い。涼、鴻は緋冴と燦に付いて行け」

綾迦の言葉に皆それぞれに頷くと、涼は咲良を抱き抱え、緋冴を促した。

「行こう、姫。―――――鴻も仕方無いから一緒に」

「仕方無いってお前なぁ・・・・」

涼の言葉に呆れた声を出しながら、鴻は燦の腕を持つと、ぶつぶつ言いながら歩き出した。

その後を青藍と隼が付いて行く。

どうやら闇姫にいつ燦と緋冴が激昂するか、それを抑えているつもりらしい。

部屋の外に出ると、涼と緋冴は立ち止まった。

「燦、解っているとは思うが・・・・今は闇姫と事を構えるのは不味い――――良いな」

「涼・・・・ああ、解ってるさ」

「取り敢えず、皆燦の部屋へ行こう。そこで咲良を・・・・」

緋冴が心配そうに咲良の顔を覗き込みそう呟き、その言葉に涼は燦の部屋に歩き出そうとすると、燦が慌てて止めに入った。

「ちょっ!ちょっと待て!!!」

「何だ、大声出すな――――」

「いや、ちょっと待って、うん。あの、俺先に行く。ほら、流迦寝てるから。うん、じゃ!」

そう言って燦が走り出すと、涼と緋冴は大きく溜め息を吐いた。

「どうする?姫・・・・・」

「行く頃には流迦も用意出来てるだろ・・・全く」

「アイツ・・・・本当要領悪いよなぁ・・・・」




「兄上、咲良は大丈夫なのでしょうか」

「――――お前の父上が看て下さっているなら問題無いだろう」

龍迦と蒼迦は火宮の中を足早に歩きながら、母である綾迦の元へ向かっていた。

闇姫の急な来訪に辟易していると、綾迦の精霊、鷹が現れ、火宮の惨状を伝えたのは先刻の事。

それを聞いた闇姫は何とも言えぬ表情を浮かべ、闇の力を使い、火宮へ消えた。

あの表情は一体何だったのだろう――――

哀しげな、物憂いの表情だった。

いつもの彼女からは到底考え付かない。

龍迦はそんな事を思いながら、弟である蒼迦の焦りに満ちた顔を見つめ、そして心の中で息をつく。

風華祭まで、向こうの手が出て来るとは考えられなかった。

いや、考えた事が無い訳では無い。いつか母に言われたこんな日を理解しきれなかった自分が腹立たしい。

あの時は流迦の事で手一杯だったのか――――

もっと周囲に目を配れば、とそればかりが自責の念となって噴き出してくる。

流迦が自分では無い男に恋をした時、嫉妬の炎は熱く龍迦を包んだ。

だが、その男の人となりを自分自身で見つめられた時、何故だろう、あの穏やかな感情・・・・そう、流迦に対する兄弟の愛情が龍迦を包んだのかもしれない。

燦は、そう、良い男なのだ。

まだまだ子供な処が有るが、どんどんと成長して行くその姿に弟にも似た感情が湧きあがった。

蒼迦にはなかなか言えないが、龍迦は流迦が望むなら、とまで考える様になっていた。

「しかし、闇姫にしろ・・・・流迦を妾に出せ、と言う土王にしても・・・・一体陰の一族は何を考えているのやら」

「ああ、そうだな・・・ああ、ここだ」

蒼迦の話を切ると、華の力が溢れ出している部屋の扉を開ける。

綾迦、焔、煌、そして横になっている灼鳴。

そして闇姫が龍迦と蒼迦を見つめ返していた。

「母上!」

「蒼迦・・・・・・静かにしろ」

「母上、灼鳴さまは」

窘められた蒼迦に代わり、龍迦が綾迦に問い掛けると、綾迦はうん、と微笑みながら頷いた。

「もう大丈夫だ」

綾迦の言葉にほっと胸を撫で下ろし、やっと硬くなっていた表情を綻ばせると、綾迦はやや合って呟いた。

「闇姫がな、穢れを吸い取ってくれたのだ」

「姫が?」

「闇姫を休ませてやれ、龍迦」

そう言って背を向ける綾迦に龍迦はそっと頭を下げると、朧に近付いた。

その顔は青白く、生気が全く無い。

「姫」

「歩けるわ。――――どこで休めば良いのかしら」

「・・・・・・・」

その朧の態度に、龍迦は身を屈め、朧の身体を抱き上げると、小さく朧の非難の声が響いた。

「そんな顔色で何を言っているのです。さ、捕まって。行きますよ」

龍迦を無言で睨み付け、苦々しそうにその細い腕を龍迦の胸元に押し当てるのを確認すると、龍迦は満足気に頷いた。




過去編100回!うわ、長い(笑)