綾迦と涬、そして焔が無言で侵入者を葬い終わるとほぼ同時に綾迦が放った精霊―――――鷹が顔面蒼白になった煌を連れ、降り立った。
「綾迦さま、遅くなりました」
そう言い、跪く精霊に綾迦は頷くと、煌を促し、火宮に足早に入る。
「綾迦さま、龍迦さまと蒼迦さまは今こちらに向かっておられますが・・・・少々問題がございまして」
「―――――何だ?」
綾迦が怪訝そうに鷹を見ながら眉を顰めると、鷹も困った様に溜め息をつく。
「闇姫さまがお出ででしたので」
「はッ――――――懲りぬ女だ」
「しかしながら、さすがは闇姫さま。龍迦さまも蒼迦さまも片無しです」
「ま、それは良い。今は咲良の命だ」
「は・・・・・」
重々しい扉を開け放つと、涙に濡れた緋冴がハッと、顔を上げ綾迦を縋る様に見つめた。
その手には血に濡れそぼった咲良が抱かれている。
「緋冴・・・・・」
「咲良ッ!」
煌が慌てふためきながら咲良に駆け寄り、その傷を見て呻く。
「水の王子が結界を張ってくれたのか。よし、緋冴、離れろ」
「華王さまッ、咲良は、咲良は・・・・」
「案ずるな、咲良は必ず助ける。さ、離れるんだ」
煌が力強く緋冴の肩を抱くと、緋冴は嫌々と一瞬首を振り、そしてその腕から咲良をそっと床に横たえた。
「王子たち、感謝する。これならば、大丈夫だ」
そう言うと、煌は手を上げ、水の結界を払うと、そのまま腰に吊るしていた袋から黄金の塊を取り出し、咲良に飲ませた。
「煌、灼鳴も頼む」
「うむ」
煌が灼鳴に駆け寄り、その傷を丹念に調べあげて行く。
咲良が身を呈してまでもその傷は完全に塞がってはいない。まだ息絶えていないのは、咲良の血のお陰だろう。
「これは―――――」
「煌?どうなのだ?」
「咲良の血でも効かぬとは。・・・・・・」
そう言いながらやはり煌は袋から黄金の塊を素早く灼鳴に飲ます。
だが、様子は変わる事は無い。
「ふむ・・・・・」
「煌ッ?これは一体、どう言う事なんだッ?」
「・・・・・傷口は完全に穢れている。意識は無い。咲良の血や私の血も効かない、か」
ふう、と息を吐きながら煌は髪をかき上げた。
一瞬苦悶の表情か、と思われたがその表情は実に楽しげだ。
「穢れ、ね・・・・」
「煌?」
「私に対する挑戦かな、これは―――――」
煌は自嘲気味に漏らす言葉に焔は聞き返すが、煌はそのまま黙り込んでしまった。
「涬、この傷口を清水で洗ってみてくれ。綾迦、子供達を皆外へ。焔は五月蠅く話し掛けるなよ、邪魔だ」
煌の言葉が響くと、皆それぞれ頷いた。
今は、煌だけが頼りなのだ。
そこに、明らかに聞き慣れない声が割って入って来ると、部屋の中の視線がその声に集まった。
「その傷は、穢れだけでは無いでしょう?どうなさるつもり?華王さま」
「闇姫か」
「招かれざる客でごめんなさい、皆さま」
カツカツ、と耳障りな靴音を響かせ、色気溢れるその身体を惜しげも無く魅せる服を身に付けた闇姫――――朧は顎を上げ、妖艶に微笑んで見せる。
「妖獣の呪が掛かっている、そうでしょう?麗しい華王さま」
「――――その通りだ」
「治せるのかしら?貴方さまに」
そう言って扇で口元を隠しながら瞳を灼鳴に走らせると、朧の黒い瞳が煌めく。
「闇姫、君は私の大事な友人の娘だ。・・・・・・今までの無礼な言葉は許そう。だがこの先は許さん。あまり陽の一族を甘く見ると、痛い目に合うぞ」
「まぁ、怖い・・・・・父は死に、今は実質私が王の役割を担っているのよ?王として接して頂いても宜しいのでは無くて?」
「ふざけるな。誰がお前の即位など。土王にしてもそうだ。我等陽の一族は誰1人認めてはおらん」
「私は認めておりますわ」
煌の冷たい言葉に臆する事無く、朧は緩慢に返事を返すと、ぐるりと部屋の中の人物を1人1人じっくりと見つめて行く。
「これだけの人数が揃っておきながら、この様な惨状・・・・平和惚けも甚だしい」
くっと、口元を歪ませ、朧は高らかに笑い声を上げる。その姿に思わず緋冴と燦が抗議の声を上げようとするのを、背後から涼と鴻が止める。
「離せ、鴻・・・・!」
「止めろ。相手にするな。挑発に乗るだけ無駄だ。現に見ろ、王たちは意にも介しておらん」
確かに、綾迦や焔は冷たく朧を見つめているだけだ。
かろうじて煌が相手をしているだけで、それでもその瞳は冷ややかなものだった。
「良いか、燦。挑発に乗るな。相手はこちらの綻びを待っているんだ」
鴻が小声でそう燦を説き伏せると、緋冴と燦は頷きながら朧を睨み付けた。