「綾迦!」
涬の声が大きく響き、その声に綾迦は小さく言葉を唱えた。綾迦の使役する精霊を涬の助けとする為だ。
「紫燕(しえん)!鳥衣(うい)!」
綾迦の声に呼応するかのように2人の精霊がゆらりと綾迦の傍らに現れた。
綾迦の命ずるままにその姿を涬と焔の傍らに寄せると、その姿をまた消す。
「涬、焔!長くは持たんぞ。なるべく早くにカタを付けろ!」
「「応!!」」
涬と焔は大きくその身体を翻した。身の丈よりも遥かに大きいその妖獣の頭上高くまで飛びあがると、まずは焔の紅蓮の炎が妖獣に斬りかかる。
「はッ!!!!!!」
焔の気合と共に妖獣の身体が炎に包まれ、そして大きく身を裂く。
多量の緑の血肉が妖獣のパックリと開いた傷口から見え、多量の血がボタボタと辺りに落ち、周囲には妖獣の血肉から湧き上がる臭気で満ちた。
だが、地面近くでその血は綾迦の風で受け止められている。
妖獣の血肉が地面に落ちたら最後、その場所は穢されてしまう。
この場所に生きろ小さな命――――花精や緑精たちは一瞬でその命が消えてしまうだろう。
「浅いッ!」
涬の叱責が焔に飛ぶ。
「涬、核を見付けろ!」
「言われなくとも――――――!」
妖獣の中に有る、核・・・・これを攻撃する事が一番妖獣に効くのだが、なかなかそれを探し出す事は難しい。
消耗するまで闘い、最後に核が残る場合が多いのだが、今回は遊んでいる場合でも無い。
綾迦が召喚した紫燕と鳥衣は涬と焔の身体を空中に自在に動かさせてくれているのだが、これはかなり綾迦の身体に負担をかけるものだ。
「涬!」
焔の言葉に涬はゆっくりと剣を持ち直し、その透明な剣を頭上から突き刺した。
そのまま涬の小さな言葉と共に妖獣の身体が光りだすと、妖獣は堪らず身を大きく捩り、のたうった。
妖獣の咆哮が辺りに響き渡って行く。
「ここだッ!」
涬の包んだ光が一際大きく輝く場所に焔は迷い無く剣を突き入れる。
カチン、と焔の剣先に何かが触れ、その感触に焔は知らず笑みを浮かべた。
――――――殺った。
そう感じた瞬間、妖獣の体内から大きく光が飛び出し、そのまま勢い良く砕け散ると、砕かれた欠片が霧散して行った。
「―――――」
涬と焔が無言で綾迦の傍に降り立つと、2人の背後から現れた精霊が静かに綾迦の傍らに消えた。
「綾迦」
「ああ――――何だ、この手ごたえの無さは」
「弱過ぎる」
綾迦は抑えていた妖獣の血肉が一片も漏らさず霧散したのを確認すると、涬と焔に向き直り、頷く。
「向こうから・・・・攻撃も仕掛けて来なかった」
「妖獣の事はさておき、だ」
綾迦はそう言うと、風牢に閉じ込めた数人を指した。
「全員、死んでいる」
「「なッ――――!!」」
涬と焔が風牢を見ると、中にいた数人は全て事切れていた。
苦悶の表情と共に、その身を横たえている。
「バッカ野郎どもがッ・・・・」
焔の表情が歪み、悔しそうに天を仰ぐ。
「綾迦・・・・」
「焔、自刃では無い。これを見ろ。ほらここだ」
綾迦の指し示す所をみると、横たわり事切れている数人の胸元に小さな文字が見える。
『死』
刺青の様なその文字は見ている間にどんどんと薄れ、やがて見えなくなって行く。
「これは・・・・」
「捕まれば、死――――失敗すれば生きる事すら許されない、か」
綾迦の言葉に涬と焔はやるせなく頷く。
「――――――外道が」
そう言いながら綾迦は立ち上がると、身体に力を込め、風の塊を地面に何度も落とした。
綾迦の力を受け、穴が開いたそこに、風牢の中に横たわる数人を1人ずつ横たえて行く。
「綾迦・・・・」
「涬、頼む。全ての罪は洗い流す事は出来ぬだろう・・・だが、仕えるものの為にこうなったのだ・・・」
そう言うと、綾迦は横たわる人の上に優しく風で土を降らせて行く。
やがて盛り上がったその上に涬が美しい霧雨を舞わすと、綾迦は哀しげに微笑んだ。
猫がさかって眠れません・・・
いやだからさ・・・・お願い、寝かせて←