◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇Far expectation 10


「君・・・・」

「あの後何度か来たのだぞ?だが全く会えなかったからな。今日は兄上の目を盗んで来てやった」

そう言うと少女は当たり前の様に朔の横に寝転ぶ。

「何だか元気が無いな。何か有ったのか?」

屈託無く微笑むその姿は以前会った時よりも数段美しく見える。

「いや、何も無いよ」

「ははッ、お前は嘘が付けない性質だな」

顔に思いっきり出ているぞ、と言葉を続けると、ほんの少し俯いた。

「ま、話して楽になるとは決まって無いが、言いたくなれば言っても良いぞ」

「そうか、考えてみるよ」

そう言うと朔は目を瞑り、柔らかい風に髪を揺らした。

少女のそれに倣ったのか、横に気配は有るものの、静かなものだった。


有る程度の沈黙が過ぎると、朔の腕に不意に温かい柔らかい物が触れた。

ゆっくり目を開けると、朔の腕に絡み付きながら少女は眠ってしまっている様だった。

その無防備な寝顔を呆れた表情で見つめてしまう。

「名前しか知らない相手の横で寝るなんて・・・・どこまで・・・」

そう呟きながらあどけない寝顔にときめきを感じてしまうのも否めない事実だった。

整った顔立ちに、瞑られた長い睫毛は時折ピクリ、と蠢く。

紅い唇は紅を塗った訳でも無いのに紅い。白い肌はまるで白磁の様だ。

「ん・・・・・」

不意にその紅い唇から声が漏れると、瞑られていた瞳がゆっくりと開く。

「起きたのか」

「寝てしまったのか・・・」

「ここは気持ちが良いから。仕方無いよ」

コシコシ、と手の甲で瞳を擦ると、少女はそのまま伸びをする。

「そう言えば、この間言わなかったな。名前」

「ああ――――――そうだったね」

朔はポツリと呟くと、目の前で伸びをする少女に笑みを向けた。

「秘密が有っても良いんじゃ無いかな」

「秘密?」

「君の名前を知らなくても、君を知ってるから」

変な奴だな、そう少女は呟くと、首を傾げた。

「知りたくないなら無理にとは言わん。―――――どうせ私はもうじき居なくなる」

「居なくなる?どう言う意味?」

「嫁ぐのだ」

事も無げに言い放ったその少女に朔の瞳が大きく見開かれた。

「その、そんなにまだ若いのに?」

「うむ。私には兄上と妹がいるのだがな。ちょっと訳有りで、有る王子を守るため、目くらましになろうと思っているのだ」

有る王子・・・・・?

「母上や兄上はそんな必要は無いと言うのだが・・・・少しでも道を明るくしてやりたいのだ。・・・私は一族の中で実は力が全く無いのだ。・・・・・足手まといな私にも出来る事が有った、それだけで良い」

「そんな事、解らないじゃないか」

朔の声は頼りない。ドクドクと動悸が激しくなって、朔は思わず胸の辺りを掴んだ。

「好きでも無い奴の処へ嫁ぐなんて、それに母君や兄上が反対しているのに、何故!」

「―――――誰かの為、自分が役に立つのならばそれが私は嬉しいのだ、朔」

そう言うと少女は一際輝いた笑顔を向けた。

「それに、皆には黙って行くつもりだ」

「君、何を言っているんだッ、そんな事、もし――――」

「好色で有名な王だからな。まぁ、上手く行くさ」