「解った、解った」
そう綾迦は楽しげに笑うと軽く手を振った。
「青藍、今回は行かなくて良い。私が直接赴こう」
『なッ!』
「何言ってるんだ、綾迦!」
綾迦の言葉に驚きの声を上げた焔は慌てて、綾迦の腕を掴み、首を振った。
「そんな事、させねぇ!」
声を荒げた焔に周囲が固唾を飲んで見守っていると、不意に綾迦の視線が空中を漂った。
「――――焔、待て。今何か・・・・・」
綾迦がつと声を落とし、焔の口を塞ぐ。
「この気配・・・・・しまった!結界を張れ!青藍!隼!広域結界を!」
「なッ、・・・・・燦、緋冴!」
綾迦の言葉に焔が俊敏に反応を示し、2人を振り仰ぐ。
「「はッ」」
2人が頷き、走りだそうとした瞬間、不意に小さな声が聞こえて来た。
「ほ、焔さま・・・」
その声に皆が振り返ると、小さな体を引きずる様に歩く、灼鳴の姿が見える。
「灼鳴。どうした」
思いがけず現れた正妻の姿に焔が近付くと、灼鳴は今にも泣き出しそうな顔で焔の腕に縋り付いた。
「灼鳴・・・・?」
「―――――く、くせも」
そう言うと、灼鳴の身体がグラリと揺れ、崩れ落ちた。
「灼鳴、おい、どうした?」
その身体を抱き支える焔の手にヌルリ、とした感触が伝わる。
ザワリと背筋から何かが伝わって来る。
その手を外し見ると、紛れも無い紅い血が拡がっている。
「灼鳴!」
焔の声に綾迦の身体がふわりと浮き上がり、灼鳴の傍に降り立った。
「灼鳴・・・・・・・・ッ」
綾迦は素早く灼鳴の傷を見、その傷の深さに愕然と表情を凍らせる。
「咲良、頼む!」
「はい、綾迦さま―――」
綾迦の言葉に咲良は急いで短剣を取り出し、ぎゅ、と唇を噛み締め、腕を斬り裂いた。
その熱い痛みに屈する事無く、身体中に力を込めると、黄金の血の塊を作って行く。
それを急いで灼鳴の青褪めて行く唇に差し入れ、祈る思いで見つめた。
だが、灼鳴の頬や唇は青褪めて行くばかりで身体の体温も一瞬上昇したものの、やはり落ちて行く。
「これは・・・・何故・・・・この傷は一体」
「綾迦さま、これではいけません。このままでは確実に灼鳴さまは―――」
「咲良、頼む、何とかならんのかッ」
緋冴の悲痛な声に、咲良は躊躇いながら頷き、綾迦を振り仰いだ。
「すぐに父上を」
「うむ」
「そして、涼さま、鴻さま。水の結界を。灼鳴さまを水の結界でお包み下さい」
「「解った」」
「綾迦さま・・・・・こちらは私にお任せを――――火王さま、私を信じて下さい」
咲良の言葉に綾迦と焔は頷くと、焔は走りだし、綾迦は風の中に消えた。
「青藍、隼、結界はまだか!!」
燦の言葉に青藍と隼は頷き、己の身体を光で包んで行く。
「くっ・・・・・・」
隼の使役に多大な力を吸い取られながら、燦は怒りで震えていた。
何故・・・何故、義母上をッ――――許せない。
怒りに紅い瞳を更に紅く滾らせながら、燦は必死で立ち堪え、灼鳴の血に染まる身体を見つめた。
「涼さま、鴻さま・・・・お願いします」
咲良の言葉に涼と鴻は互いに正面に立ち、ゆっくりと水のベールを作って行く。
「緋冴さま、どうか御心静かにお聞きください。―――半刻もしない内に父上が来られるでしょう。父上の治癒の力は私よりも遥かに上・・・・もし私の力及ばなければ、その時は父上にお任せ下さい」
「咲良?それはどう言う意味なのだ?・・・待て、咲良ッ!」
緋冴の言葉が終わる寸前、咲良はおもむろに胸をはだけた。形の良い乳房が露わになると、躊躇いもせず、短剣を己が胸に突き立て、一瞬小さく呻いた。そしてそのままゆっくりと崩れ落ちる。
「ああッ――――――!!咲良!!!」
緋冴が咲良を受け止めると、咲良の腕が力無く緋冴の腕に絡まった。
「ひ、ひささま・・・・おはや・・・く」
「咲良、咲良・・・・・ダメだ、咲良・・・」
咲良の身体から流れ落ちる血は全て美しい黄金の欠片に変わって行く。しかし胸から零れる欠片は先程の腕の傷の血の欠片よりも輝きが違う。その煌めきは咲良の命の煌めきなのでは無いか、そう錯覚してしまい、緋冴はそれを拾い上げる事が出来ずにいた。
「ッチ!涼!結界は俺が引き受ける!早くそれを正妃さまに!」
頭上から鴻の苛立ちを含んだ声が聞こえると、咲良を抱き締めて動けない緋冴の肩に優しく手が乗った。
「姫、大丈夫。大丈夫だよ・・・・そのままで居て良いからね」
涼の優しい声が緋冴の耳に囁かれると、涼はその黄金の欠片を灼鳴の唇に差し入れた。
そうして絶えず流れ落ちる咲良の胸の傷にその手をかざすと、血を止めた。
「僕たちは、傷を塞ぐ事は出来ないけれど、血を止める事は出来るから・・・・これでしばらくは大丈夫だろう」
「・・・・・・・・・王子」
「姫。・・・・泣かないで・・・・・」
振り仰いだ緋冴の瞳が涙に濡れているのに気付いた涼は優しくその涙を拭った。
最近緋冴が女の子化してる気がしないでも無い・・・
てか、涬、アナタはどこ?←