流迦の日記より
「今日、燦さまは水の王子の涼さまと鴻さまとご一緒に、温泉なるものに出掛けられました。何でも、水の聖域の1つに水が温かいお湯になっている場所が有るらしいのです。本当は流迦もご一緒したかったのに、燦さまが絶対駄目だって仰るから・・・・仕方が無いので流迦はお留守番です。今頃はお着きになられた頃だと思いますが・・・無事にお帰りになられれば良いのですが・・・・」
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「おい」
「何だ、鴻」
途轍もなく不機嫌な声を出す鴻に燦は顔を背けながら返事を返した。
「何だじゃねぇ・よッ」
「だから何だ」
「ふふ・・・・流迦さま達がご一緒じゃ無いから拗ねてるんだよね、鴻」
涼がからかい交じりにそう言うと、鴻は真っ赤な顔で否定した。
「だ・れ・が連れて来るか。良いか、鴻。俺はな、お前に言われて緋冴姉上を誘ったんだ。そしたら凄い勢いで涼が止めに来たんだぞッ!聞いたら何だ?は、裸同然で入る場所だそうだなッ!そんな処に流迦や姉上、それに咲良さままで・・・・お前と言う奴はッ!」
「なッ、何を・・・・そう言うつもりじゃ無いッ!だいたい離れて入れば良いだけだろうがッ!そんな狭い場所じゃ無いんだからなッ」
そうなのか?と涼に目配せを送ると、涼は「ばれたか」と小さく舌を出した。
「僕が嫌だっただけ。緋冴姫の身体見られる事が」
事も無げにあっさりそう言うと、涼はにっこりと微笑んだ。
いやいやいや、ちょっと待て。涼。今の発言はどう言う意味だ、おい。
「あ、着くよ。燦、火竜を降ろして」
涼の言葉に問い詰めたいのを我慢しながら、燦は火竜の手綱を手繰り、聖域へと降り立った。
確かに大きい場所だ。
至る所に湯気が立ち上り、暖かそうな水がどんどん流れ込んでいる。
美水の色は桃色で、うっすら香気が漂っていた。
「な?だから言ったろ?この湯気で周りはほとんど見えないし、だから誘ったんだぞ」
「ほんとうだな・・・・すまん、鴻」
自分の目で確認しても、少し離れれば全く相手は見えないだろう。
燦は素直に謝罪すると、鴻は呆れた様に、もう良いよ、と呟いた。
「さ、入ろうぜ」
そう言うと鴻はさっさと自分の服を脱いで行く。あっという間に腰布1枚を付けただけの姿になると、勢い良くお湯に飛び込んだ。
ザパッとお湯から頭を出すと、気持ち良さそうに息を吐いている。
「来いよ、早く」
どうやら泳げる位の深さが有るのか、ゆったりとお湯の上に浮かぶ鴻を尻目に燦も腰布1枚になると、同じくお湯に飛び込んだ。
思いの外熱いそのお湯に浸かってみると、いつの間にか涼も浸かって、岸辺に腕をもたれさせている。
「なぁ、涼。さっきの話だけど・・・・・」
「うん?」
「姉上の話」
ああ――――そう涼は呟くと、細い身体に程良く付いた筋肉質な上半身をお湯から出した。
「その・・・・・な、何で?」
涼が何故そう言ったのか、真意は測れない。もしかすると姉と重ねているのか・・・もしくは純粋に緋冴に好意を持っているのか・・・・
「何で?やけに抽象的だね」
「涼は火の姫がお気に入りなんだよ」
「うおッ!」
いきなりお湯の中から出て来た鴻に驚きながら燦が叫ぶと、鴻はしてやったりと笑顔になった。
「子供みたいな事しやがって――――!こら、鴻!」
ザバザバとお湯を鴻に掛けると、鴻も笑いながら燦にお湯を掛け返す。
「全く、子供だな、2人とも」
そう言いながら涼は緋冴の顔を思い浮かべた。
いつも男装している美しい姫。長い髪を邪魔にならぬ様に束ね、装飾は片耳に付ける石のみ。しかも風王に貰ったものだと言う。着飾る事も無く、変に装飾品も無く。なのに緋冴には匂い立つ美しさばかり感じてしまう。
臆さず、媚びず、そして気高い。
男装しているとは言え、その身体からでる色気も・・・・・・
そこまで考えると、ぶんぶんと首を振った。
違う、これは・・・・・・違う、はずだ。
ふと赤くなった顔に大量のお湯が掛かった。
「――――――」
「涼だけ澄ました顔してんなよっと。来いよ、涼!」
「涼、早くこっち来いよ、あっちも案内してくれって」
明るい声で自分の片割れと最近出来た友人を冷静に眺めると、両手に力を込める。
ポタポタ、と頭から落ちるお湯が生温くて不快だ。
「「ちょ、ちょっと待て!こんな所で力使うなって!馬鹿涼!!!!」」
「今考え事してたんだよ、僕は。それを邪魔されて黙ってると思うのか・・・・」
「「だからちょっと待て―――――――!!」」
緋冴から流迦への手紙より抜粋。
「流迦、残念ながら折角温泉なるものに行ったのに、燦と鴻は熱を出してしまった。全く鍛練が足らぬ。(略)今度涼に誘われたので温泉なるものに行こうかと思っている。やはり何でも経験しておかなければな。では流迦また会える日まで」
はいお待たせしました(笑)
温泉へ行こうです。この素晴らしいイラストを描いて下さったのは桂飛鳥さま。
このイラストからアイデア頂きましてこの何とも言えない外伝に(笑)
ほんの少しだけ涼の気持ち入れてみました、ハイ。
気に入って頂けると嬉しいのですが(笑)
飛鳥さまの素敵ブログへ雨粒の落ちる頃には。
