◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇Far expectation 8
鈴迦の声は柔らかに朔の耳に響き、その言葉の1つ1つに朔は頷いた。
これが風王なのか―――――天界最強の称号、そんな猛々しい名前は彼女には似合わない。
朔はマジマジと鈴迦を見つめた。
年齢ですら、自分とまだまだ変わらない様に見える。
だが彼女の周りの威厳に満ちた空気や、崇高さ、清廉さは他の誰にも感じられないものだ。
「さて。では誰に行かすかですね、母上」
彼女の息子、狼迦が鈴迦に向かってそう言うと、全員が頷いた。
「特に綾迦。お前は論外だ」
「お兄さま!どうして私だけ?」
狼迦の言葉に綾迦が不服そうに声を上げる。
「お前は―――何を言っている!遊びでは無いんだぞ」
「そんな事解っているわ」
「解っていない。お前は全く解っていない。良いか?お前はここで母上と共に待て」
膨れた頬を隠そうとはせず、目の前で兄弟喧嘩を始めた綾迦を朔は目を見開いて見る。
だが周りは「またか」とばかりに微笑みながら2人を見ているばかりだ。
「お前は・・・・風姫としての誇りも無いのかッ」
「何ですって?お兄さま、それは言い過ぎよッ!お兄さまだって次期風王として安易な考えじゃ無くって?」
「綾迦ッ!!!」
オロオロと何とか2人を止めようとする朔に、赤毛の青年2人が笑いながら止めた。
「ほっとけ、ほっとけ」
「いつもの事だからさ」
「いや、しかし・・・・」
朔が言葉を詰まらせながら2人を見ると、2人はさも可笑しげだ。
見れば周囲全員が楽しげに喧嘩する2人を見ている。
「そんな事より、こっちを決めようぜ」
ずい、と身を乗り出し、その赤毛の1人・・・焔が朔を指差した。
「そっちは朔・・・・あぁ、呼び捨てで良いよな?朔と棗、そして涬。多分華は煌が来るだろう」
「だな。やっぱり知った顔が良いだろう」
焔の言葉に光の瞬と皇が頷く。
「なら、緋影。お前は留守番だ。俺が居ない間、妹たちを守れ」
「・・・・・・は。兄上」
焔の言葉に緋影・・・弟なのだろう・・・・が静かに頷き、焔もその姿に満足そうに頷く。
「煌とは幼馴染だから、その方が連携を取り易い。良いか?朔」
「あ、ああ・・・はい」
思わず頷くと、焔はまたも指を指す。
「敬語禁止!固い奴だな、お前」
そして人懐っこそうに笑顔を向けると、宜しく、と手を差し出した。その手を力強く握り締めると、焔は嬉しそうに笑う。
「さて、じゃぁ、うちはどうするべきか」
「兄上、では私が」
「ふむ・・・・・」
瞬の言葉に皇がそう言うと、瞬は思案顔で顎に手を掛けた。
「焔が出るならば、緋影の守りを手伝ってやって下さい。如何せん、緋影の力は焔にまだまだ及ばない。その時私が助けに入るより、兄上の方が確実です。それに華も煌が出るならば、そちらも心配です」
「ふむ、そうか・・・そうだな・・・・」
「はい。何か嫌な予感がするのです。ならばやはり守りを固めておかなければ」
「――――解った。では皇、行きなさい。・・・・気を付けろよ」
瞬の言葉に皇は小さく頷くと、朔に手を差し出し、握手を求めた。
朔と棗との握手を済ますと、焔には拳同士をコツン、と合わせる。そして2人で微笑み合うと、肩を組み合った。
「さて、後は風の2人か・・・・・」
棗が頭を掻きながら皆に言うと、皆頷く。
「ま、風は間違い無く・・・・」
「はい、私――――――!」
そこに元気良く滑り込んで来たのは風姫、綾迦だった。
「な、やっぱり」
「だろうと思った」
焔と皇が笑うと、その傍に綾迦はふわりと飛び、頭を順に叩く。
「やっぱりって何よ、その言い方。―――朔さま、私が参ります。って事で宜しく」
綾迦はあっさりとそう言うと、ちょこんと首を傾げて微笑んだ。
その仕草は何とも言えず可愛らしい。
「いや、し、しかし・・・・姫君を連れて行くなんて・・・」
慌てて朔がそう答えると、綾迦は美しい眉を顰め、真っ直ぐ朔を見つめた。
「朔どの・・・・・」
そこに鈴迦の柔らかい声が割って入る。
「狼迦には全体の守護に廻って貰う事にします。緋影、瞬・・・・・その補佐をお願いしますね。討伐はこの綾迦に任せます」
「し、しかし・・・・」
「朔どの」
朔の言葉を鈴迦は小さく制し、そして呟いた。
「貴方は強い・・・・・ならば綾迦を守ってやって下さい」
有無を言わさぬ迫力で鈴迦はそう言うと、全員を見渡し、頷いた。
「・・・・・皆御苦労でした。私はしばらく休みます・・・・涬と煌が来たならば私の私室へ呼んで下さい」
そう言って去って行く鈴迦の背中を見送ると、心の中で溜め息を落とした。
姫君を守って戦うなど・・・・朔にはどうしても考えられない。
危険にわざわざ晒すなどと・・・
そんな朔の心中を察したのか棗が朔の肩を叩く。
「心配するな、朔―――――見た目と強さは違うぞ」
「しかし、棗・・・」
「そうそう。綾迦の強さは半端じゃねえよ」
「全く」
口を揃えてそう朔に告げるのは、これから一緒に旅に出る、焔と皇だった。
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