◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇Far expectation 6
「何なの、この騒ぎは」
「あっ、姫さま。それが、先程闇の王子さまと土の王子さまがお着きになられたのです。ほら、先達て水宮に保護されていた王子さま達が。それがもうカッコ良いったら!女官たちは色めき立って一目見ようとほら、あの通り」
女官の1人が指差す方向には何十人との女官が屯っている。
「ああ――――――例の話?」
「そうです、こちらも忙しくなりますね・・・・・特に姫さま!良いですか、いつものお転婆ぶりで狼迦さまに怒られない様にして下さいね」
こなれた動作で気安く女官は己が姫、と呼ぶ少女を軽く諫めると、忙しなさそうにその場を立ち去った。
女官のほとんどが屯っているので仕事が多いのだろう。
「深窓の姫ならぬ、深窓の闇の王子、か」
つまらなそうに少女は1つ呟くと、屯っている女官に向かって歩き出した。
朔が水宮に入ったのは美水の話を聞いてごく僅かな時間の後だった。
直後彼は病の床に就いている母親を連れ出すと、美水の導きに従い、水宮へと向かった。
水王やその妻、水の王子たちや精霊に順に熱烈な歓迎が終わると、朔の母親の為に来ていた華の一族の王子と対面した。煌、と言うその王子の力は不思議なもので、己の血を黄金の結晶に変化させると、その美しい結晶を母親に飲ませたのだ。
すると、母親の生気は見る間に漲り、常に身に纏っていた死の影は綺麗に消え失せた。
まだ経過を見ないとはいけないよ、と呟いたその青年は母の為に己の身体を事も無げに切り、その代償に母の身体は快方に向かう・・・・・やるせない気持ちと裏腹にその青年に心からの誠意を込め、感謝の言葉を述べた。
だが、煌は小さく笑って朔の肩を叩いただけだった。
華の王子の中で飛び抜けて治癒能力が高いとされるその美しい青年はやがて朔の大事な友人の1人となる。
やがて棗も到着し、慌ただしく日々が過ぎた頃、闇王の数々の悪行が露見して行った。
確実な証拠が朔の前に運ばれ、膨大な量のその書簡を朔は誰に任す事も無く、全て1人、確認して行った。
そして自身の中で、闇王に対する疑念をはっきり確認出来る頃、水王に陽の一族に謁見する事を提案されたのだ。
実際、陽の一族に会った事はただ1人だけ。
しかもほんの少しごく僅かな時間――――――聖域で会ったあの少女のみだった。
生まれて初めての少女との出会いからめまぐるしく日常が変わったものだ・・・・・そう考えると、不意に笑みが零れた。
水王の王子、透や棗の友人でもある涬・・・・美水や本物の細。
今までは棗としか心を通わせなかった朔の中で何かが確実に変化して行った。
そう、何かが朔の中で生まれて来たのかもしれない。
勿論、闇王、無月からは朔や細の戻りを催促する書簡が矢継ぎ早に送られて来ていた。
その度、水王の見事な切り返しで朔は水宮に留まっていたが、その書簡の多さに辟易もしていた。
無月は細を我が物にしたいのだろう。
母が居なくなった事に全く触れていない事から、それは容易に感じる事が出来る。
その事に対する悔しさ、虚しさ、やり場の無い怒り・・・・だがそれを上回る周囲の優しさに、朔の心は穏やかに凪ぎ、無月の罪にのみ、自身の考えを集中する事が出来た。
・・・・・・無月が犯した罪を償う為に、あのおぞましい血が流れる自分が・・・・・この事態を収拾しなければならない。
いや、まだ無月が犯した事とは限らない。
裏腹なこの自分の心を決める事が出来ない自分に腹立ちを覚えながら、朔は蔓延る妖獣や幻獣を討伐して行く事を決めていた。
水王からの陽の一族に謁見する提案が出された、翌日の事だった。
水王はその話に同意を示すと、陽の一族にも手助けを求めるよう、嘆願書を認めてくれ、更に第2王子で有る涬をその討伐に同行させると、申し出てもくれた。
そして、今日―――――
朔にとって運命の日が始まろうとしていた―――――――――