◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇Far expectation 3


「朔。どうした?目の前の美しい精霊に声も出ないか」

気だるげな声が朔に突き付けられ、その低い声に嫌悪感を出さぬ様、朔は曖昧に笑ってみせた。

心底どうでも良い―――――そんな思いで臨んだ見合いに、つまらない問答をするつもりも無かった。

「ええ、本当に。―――お噂通り美しい方で、声も出ませんでした、闇王さま」

血の繋がった実の父にそう慇懃に答えると、白髪まじりのたっぷりとした髭を揺らし、好色そうな瞳に鈍い光を放ちながら、闇王――――無月はさも楽しそうに笑い声を上げた。

「そうだろうなぁ、この美しさ・・・息子にやるのが惜しいくらいだ」

その言葉に朔の身体に戦慄が走った。

自分がこの水の精霊との見合いを断れば目の前のこの精霊は父に無理矢理組み敷かれ、飽きるまで傍でいたぶられ続けるに違いない。

それは予感では無く、確信に近かった。

見合いに同席するのも、ただ目新しい自分の生贄を探しているに過ぎない。

そう思うと吐き気が込み上げ、父に対しての嫌悪と憎悪に身体が震えそうだ。

朔よりも前に生まれた第1王子は瞳の色が気に食わないと生まれてすぐに瞳を抉られ、そして死んだ。

第2王子は自分より霊力が高いと知った時点で無残にも殺された。

そして勿論その母達も同様に残酷に殺された、と聞いている。

運が良く、幼い頃は瞳の色や髪の色が無月に酷似していた為、何とか生き延びられた。成長してからは無月の何人目かの妾で有った母に自分を押し殺して生きよ、と言われて来た。

出来る限り穏便に、そして自分の感情を押し殺し、父に従順に生きた。

そして今―――――

父を上回る力をうまく制御しながら、相も変わらず自分は自分を出さずに生きている。

「闇王さまはお言葉が上手でいらっしゃいますのね・・・・ねぇ、朔さま」

不意に朔に声を掛けるその優しい声音に顔を上げると、目の前に座る水の精霊細が微笑みながら朔に視線を向けている。

「ええ、闇王さまは女性の扱いに長けていらっしゃいますから」

「本当。思わずお見合いの相手が闇王さまかと思いましたわ」

朔の無月に対する軽い嫌味を事も無げに返すと、細はゆっくりと闇王に微笑みかけた。

「儂はそれでも良い位だ」

「まぁ、ご高名高い闇王さまが私如きの様な精霊を相手にされるなんて、有り得ませんわ。そうでしょう?朔さま」

「ああ、いや、まぁ・・・」

細の見事な切り返しに口ごもる朔に無月はちらりと視線を走らせると、媚を含んだ笑いをその唇に乗せ、細に向けた。

「そうそう、朔さま、是非1度水王さまの元へいらして下さい。今回の縁談は水王さまから承ったものなのです。それに最近の妖の出現の多さについても是非お話したいと・・・・・」

細は無月の厭らしい視線に物怖じせずに真っ直ぐに見据えながら、細は朔に話し掛けると、首を傾げてみせた。

「本来ならば、闇王さまに直々のお出でをお願いしたいのですが・・・・お忙しい闇王さまの事。この些少な事でお手を煩わせたくは有りません。朔さまならばまだお時間はございますでしょう?如何でしょうか、闇王さま・・・」

そう言うと細はやけに妖艶に微笑んだかの様に思った。

まるで闇王に媚を売るかの様に微笑みを無月に向けている。

「・・・そうか、そうだな・・・・朔、では水宮へ行くが良いわ。但し、細どの・・・・必ずまたこの闇城にお越し頂けるかな?その約定、果たして貰えるならば、朔に水宮へ行かせよう」

無月はニタリと笑いを浮かべ、値踏みするかの如く、細の身体へと視線を走らせる。

水王からの縁談の精霊をこのまま闇城に置いて置けば、諍いの種だ。

細はどうした、と使者も多くやってくるだろう。このままお互いに気に入り、そのまま細を闇城から出すまい、とでも考えていたのだろう。

無月はどうしてもこの見目麗しい精霊を傍に置きたいらしい。向こうの言い分を聞いてやるから必ずまた来い、と暗に言っているのだ。

最早息子の縁談では無く、自分の見合いに挿げ替えているかの様だ。

朔は拳をきつく握り締めながら、大きくなって行く無月への憎悪に身を焦がしていた。






はい、やっと出ました、お父さん(笑)

うん、書いてて「こんな親父嫌だ」←