ん――――

身体が鉛の海に沈んでいるかの様に重い・・・・

身を捩ると身体に巻き付いているシーツさえもが鬱陶しいと感じられる。

意識はぼんやりと有るのに、身体が重くて動けない。

―――何で、こんな・・・。

はっきりしない頭でまどろんでいると、遠くで話声が聞こえた気がした。

「燦さまは――――なの?」

「―――するな――――だから」

聞き慣れた声だ・・・

「――――です―――どうし―――」

途切れ途切れに聞こえて来るその心地よい声がどことなく感情的に聞こえる。


―――ああ、そうだ、流迦の声だ。

不意にそう確信すると、霞がかった頭の意識が霧が晴れて来るかのようにどんどんと冴え渡って来た。

流迦?

「―――――ッ!」

がばっと寝台から跳ね上がると、ぶんぶんと頭を振ってみる。

周囲を見上げると、そこはやっと住み慣れて来た火宮の自分の部屋に間違い無い。

「え・・・なん・・で」

そう呟き周りをもう一度見渡そうとした。瞬間、燦の身体に柔らかい身体が触れる。

「燦さまッ!!」

「え・・・流迦?」

燦の胸に流迦は自分の顔を寄せ、背中に腕を回しながらしっかりと抱き締めて来る。

「燦さま・・・燦さま」

「えっと―――どうし、て?」

流迦の柔らかい髪から漂う香りは間違い無く流迦の香りだ。

だが、確か自分は水宮で結界を・・・

そうだ、あの時・・・

「思い出したか、燦」

ハッと顔を上げると、そこには呆れた顔で燦を見詰める、緋冴が立っていた。

「姉上――――・・・・お怪我の具合はッ?」

「・・・私の事よりお前だ。結界を張るのに力を使い果たし、大変だったのだぞ?全く・・・自分の心配をしろ、馬鹿者が」

緋冴の言葉に、どんどんと記憶が定かになって行く。

そうだ、あの時・・・身体中の力が吸い取られる錯覚に陥って・・・・。

「緋冴さま、お小言はどうか後日に。燦さまは3日も眠ってらしたのですから」

「―――ああ、そうだな。・・・安心しろ、結界はちゃんと機能している。それに、怒ってもいないよ、流迦」

優しくそう言って緋冴が微笑むと、流迦は安心した様に頷いた。

「すぐに咲良を呼びます。咲良に見て貰いましょう」

「いや、それは私が行こう。父上たちにお前が目覚めた事も伝えなければならないからね。燦、お前の姿を見て風姫は泣き通しだったのだぞ?全く、こんなに可愛い姫を泣かすなんていけない弟だ。では後程咲良とまた来る。しばらくは2人でゆっくりすると良い」

緋冴はそう言うと燦の頭を優しく撫でた。

「心配を掛けて、すまなかったな、燦」

「いえ、姉上、そんな・・・」

「話はまた後で良い。水王さまや王子もまだ火宮に居られるから安心なさい」

そう言うと緋冴はまた優しく微笑み、流迦と燦の頭を撫で、部屋から出て行った。

「燦さま・・・・・・」

「・・・・泣いていたのか?」

緋冴の言葉から察するに、流迦はずっと自分に就いていてくれたのだろう。

流迦の髪を撫でると、いきなり流迦の小さな両肩が小刻みに震えだした。

「―――――怖くて。もうこのまま。燦さまがお目覚めにならないのでは、と―――私、」

燦の胸に顔を埋めながら、流迦は小さく言葉を紡ぐ。その様子から流迦が泣いているのを安易に推測出来て、燦は流迦の顔を強引に自分の方に向けた。

紅潮した頬に涙の筋が伝っている。潤んだ瞳を燦に向けながら、小さな紅い唇が何かを伝えようと震えていた。

「ごめん、な。流迦・・・」

「燦さま、燦さま・・・」

燦が謝罪の言葉を呟くと、流迦は燦の首に両腕を回し抱き付いた。そのままきつく燦を抱き締めると、小さな嗚咽が燦の耳元に響く。

――――泣かした。俺が。

とてつもない自己嫌悪に苛まれながら、燦は流迦の小さな柔らかい身体を抱き締めた。

ほんのりと感じる体温と、久しぶりの流迦の感触に頭をくらくらさせてしまう。

「ごめん、本当に、ごめんな・・・」