『・・・良く知ってたわね、銀髪』

隼と青藍が涼をゆっくりと見定める様に視線を動かすと、涼は擽ったそうに髪をかき上げた。

「僕は意外と勉強好きでして」

「そうは思えんが」

「涼は満那と深那にくっついていたからな。2人から話を聞いたのだろう」

突如、その険悪な雰囲気を壊すように穏やかな涬の声が響いた。

静かで凛としたその声に、思わず安堵の溜め息を付いてしまう。

「涼、鴻。―――そこの火の王子はこの2人にどうも愛されているらしい・・・余り挑発的な事を言うものじゃ無い。解ったね、特に――――――鴻」

鴻は焦った様に頭を下げると、1歩下がって項垂れる。

意外と、素直なんだな。

そう考えながら、鴻を見ると、頬が紅潮し、少しばかり震えてるのが解る。

―――嫌な予感がする。倍返しでまたやられそうなんだけど・・・・

「おい、黒髪。良く聞けよ。燦を弄って良いのは俺だけだ」

『ちょっと、青藍!我が君はあたしが虐めるのよ、何言ってるのよ!』

「ちょ、お前ら!話の方向変わってるし、いい加減にしろよ!」

思わず2人の言葉に反論すると、パンパンと手を打ち、呆れた顔でこちらを見ている涬と目が合った。

「―――もう、良いだろう。青藍も隼も。名が泣くぞ」

涬の辛辣な言葉に青藍は軽く舌を打つと、おもむろに不貞腐れながら椅子に座る。

「そうだな、確かにまだ話は終わって無い。さぁ、涬。話して貰うぜ。何故水の姫巫女たちは死んだ?深那だけなら解らん事は無い。だが、満那が一緒で簡単に死ぬ訳は無いだろう」

「・・・・」

『そうよ、満那は水の一族の中でもかなりの強さだった筈よ。深那だって・・・そんな簡単には』

青藍と隼の矢継ぎ早に浴びせられる言葉に涬は何かを思案しながら黙りこんでいる。

「1つ、良いかな?先程の火の王子の話・・・結界をすり抜けられる特異な力はこの水の一族にも居たんだよ」

涼が父王を庇うように身を乗り出し、燦に話し掛ける。

「え・・・そんなたくさん現れるのですか、涼さま」

「さま、は良いよ、呼び捨てで。勿論鴻の事も。良いだろう、鴻?・・・ああ答えは聞いて無いから良いよ、答えなくて」

涼は何か言い掛ける鴻を手で制止すると、燦に微笑んだ。

だから、反則ですって・・・その笑顔。

そう考えながら、涼の言葉に燦は躊躇しながら頷き、ぎこちない笑顔を向ける。

「そうだね・・・確かに特異だ。そんなに現れる力じゃ、無い。だが先程から言われている僕たちの姉―――満那と深那には2人ともその力が有ったんだよ」

「姉上さまが、ですか?」

「ああ、そうだッ。だけど、姉上たちは死んだ。死んだからお前が入り込んだ場所は聖域に変わったんだ!」

鴻が悲痛な声を上げる。その声には悲しみが多分に盛り込まれ、燦は胸が痛んだ。

自分だって、母上が死んだ時はこんな風に苛立ちを隠せなかった。感情が溢れて来て、どうしようもないんだ。

「落ち着け、鴻。―――青藍、隼。そして火の王子。思いがけずこの話をするとは思わなかったが・・・」

涬がゆっくりと立ち上がりながら青藍から隼、そして燦を順に見つめると、小さく息を付き、そして涼と鴻を見た。

涼よ鴻は互いに父を見、そして小さく頷いた。

「あれは―――今年の華祭が風華祭になると、風の使者が訪ねて来た頃、だった」

そしてその当時を思い出すかの様に瞼を閉じ、一瞬押し黙る。

「満那と深那はしばらくの間綾迦たちに会っていなかったから、それは楽しそうだったよ。―――先代の闇王や土王の話は知っているね?」

残虐に殺された先代の王たち・・・燦はしっかりと頷く。

「だから、こそ。私はこの水の城に強力な結界を張り、外からの侵入を許さなかった。ここに出入り出来るのは、私が許したもののみになったのだ。それしか、どうやって守るかを考え付かなかった」