「理由を、理由を教えてくれ、涬」
「・・・・・」
青藍は涬の肩を両手で掴み、揺さぶる。だが涬は静かに首を振った。
「青藍・・・」
涬の表情は硬いままだ。何かを思案しながら、上手く口に出せない、そんな雰囲気が涬を包んでいる。
『涬、何故なの、何故・・・』
「青藍、隼・・・それは、」
涬が苦しげに言葉を紡ごうとした瞬間、部屋の扉が開いた。
涬、青藍、隼、そして燦が扉を仰ぎ見ると、そこには斜にこちらを見ながら口元に涼やかな笑みを湛える白銀の髪の涼と、不機嫌そうな顔を隠そうともしない黒髪の鴻が立ち並んでいた。
その姿に青藍は納得できない表情で涬の肩から手を離し、隼を立たせた。
しかし―――な、並ぶと、壮観、だな。相も変わらず。
燦はしげしげと2人の美しさを見つめると、思わず溜め息を付く。
「父上、御用は?どこかで見た顔も有るようだけど」
涼が上目使いに燦をちらりと見ると、鴻がふん、と鼻を鳴らした。
めっちゃくちゃ態度悪いんですけど、水の王子さま・・・。
燦は心の中で落胆を隠し切れない。しかし何とか笑顔を作りだすとやっとの思いで2人に声を掛けた。
「お、久しぶりです・・・」
「―――涼、鴻。火の王子が聞きたい事が有るそうだ」
「嫌だね」
あっさりと鴻が言い捨てると、涼がその肩を軽く叩く。
「だめだよ、鴻。そんな言い方・・・聞きたい事って何かな?」
涼が優しく首を傾げながら燦に微笑む。
いや、反則ですよ、水の王子・・・。
その魅惑的な営業的笑顔。何もかも感情を隠し切ったその笑顔を向けられると、逆に委縮してしまう。
存外、鴻の方が素直に顔に出ている分、良いかもしれない。
そう考えながら、一息付くと、燦は涼に話し掛けた。
「あの、実は、先日のお話を蒸し返す様で申し訳無いのですが・・・先日の結界をすり抜けて俺達が聖域に入った話を誰かにされましたか・・・?」
「他人に?いや・・・そんな覚えは無いけれど?」
「そんな話する筈無いだろう、馬鹿か」
涼と鴻、2人から答えがすかさず返ってくる。
「そ、そうですよね」
「相も変わらずボケた頭だな。つまらん話だ。聞きたい事はそれだけか?」
鴻の呆れ果て、嘲るような言葉を受けていると、後方から冷たい言葉が飛んできた。
『お黙り、この餓鬼』
「教育がなってないぞ、涬」
声の調子に燦と鴻が振り向くと、隼と青藍が有り得ない殺気を放ちながら鴻を睨み付けていた。
『たかだか100年位しか生きていないこの餓鬼が・・・我が主を愚弄する等と・・・・』
ふわりと隼の身体が浮き上がったと思うと、ヒュッと音がして何かが鴻の右頬を掠めた。
次いで鋭い痛みが頬に湧き上がる。慌てて指先で触る。ぬるりとした感触に、切られたとやっと解ると、驚きの表情を隼に向けた。
「や、止めろ、隼!すみません、水の王子!謝って、早く!」
燦が慌てて隼を止めに入るが隼の殺気は収まる処が、増大しているかのように感じられる。
「青藍、止めろ、早く!」
「いや?餓鬼の教育には良いんじゃないか?」
何をッ?
燦が青藍を睨み付けると、青藍も凄まじい殺気を纏っている。
な、何で、青藍までッ!
「はや、ぶさ?せいらん・・・?」
鴻が驚きの顔で燦を見る。その鴻の表情にコクコクと頷きで返すと、鴻は焦った様に燦に近付く。
「何で、お前が―――隼さまと青藍さまと・・・あ、主?主って言ったか、今ッ!」
「あ、う、うん・・・」
燦が困った様に頷くと、鴻は慌てて隼と青藍を交互に見、そして大きく空を仰いだ。
「鴻。お前が悪いよ。もう許してあげて下さい、風の四大精霊の、お1人隼さま。そして蒼天の霊鳥・・・青藍さま」
涼が鴻を庇う様に間に割って入ると、隼と青藍はその銀糸の髪の青年をゆっくりと見つめた。