水の城はどことなく風宮に似た作りをしていた。美しい白さがそう思わせるのかもしれない。
燦と青藍、そして隼は眼前に聳えるその城を前にしていた。
『すごい結界ね、でも青藍、破れるでしょ?』
「あぁ。破るのは簡単だが・・・」
「おいッ!破るな!そんな事したら侵入者と間違えられるだろうがッ!」
燦は2人の突飛も無い行動を阻止せんと必死に止めると、辺りを見回した。
門番とか、居る筈無いよな・・・
そうぼんやり考えながら佇んでいると、すごい勢いで何かが燦の頭に当たる。
「ったっ!」
燦が頭を抑え蹲ると、ポトリ、と燦の頭に当たった何か―――紙の塊が落ちた。
何だ?
くしゃくしゃのその紙の塊を拡げると、大きく[何か用か]と書かれている。
・・・・何だ、これ。
そう思った矢先、次いでまたもや頭に何かがバシバシと当たっては落ちて行く。
「・・・」
くしゃくしゃの紙の塊が辺りに落ちて行くのを視認すると、青藍と隼を見る。
呆れた様な顔でその紙の塊を青藍が拾い拡げると、大きく溜め息を着く。
「全く―――変わらんな、アイツは」
『涬ったら・・・人見知りだから』
ケイ?涬って誰だ?
燦が訝しげに首を傾げると、青藍が呆れ顔で大声を出した。
「おい、涬!いい加減にしろよ。結界を解け。嫌なら出て来い!」
青藍の言葉の語尾が木霊となって響き、その声が消える頃、青藍の目の前にさぁっと水の壁が現れた。
半透明で薄青色に見えるその壁の真中がゆっくりと開くと、中から人が現れる。
銀髪の髪に深い青の瞳、しかし、それは右目だけで、左目は黒曜石の様な漆黒だった。
先日会った涼と鴻・・・2人美しい姿を思い出した。彼らの父親・・・やけに納得出来る。それ程に美しい王だ。
「涬・・・」
はあっと青藍が大きく息をつき、髪をかき上げた。
「出て来い、と言ったのは貴様だろう」
『久しぶりね、涬』
隼が意気揚々と声を掛けるが、その美しい王――涬は隼に見向きもしない。
「―――綾迦は一緒じゃ無いのか」
「ああ、違う。あ、こいつは燦だ。光紅の息子で、今は火宮に住んでる」
「光紅の?」
いささか驚いた様に燦を涬はしげしげと見つめる。そんな涬に焦れたのか、後方から隼が食ってかかった。
『ちょっと!涬、無視しないでよッ』
「五月蠅い、黙れ。――――そう、か・・・その髪、その瞳・・・確かに似ている」
軽く隼をいなした後で、涬は燦のその髪を一房手に取ってゆっくりと撫でた。
「光紅はそれは美しく気高い精霊だった・・・優しくて、皆の憧れを一身に受けていたよ。綾迦と2人揃っているとどんな美しい花々も避けて通る程だった。しかも軒並み男を振り続ける」
そして昔を思い出したのか優雅な微笑みを燦に向けた。燦の向こうに今は亡き光紅を想い出しているのか・・・それは余りにも優しい眼差しで、燦は思わず頬を紅潮させ、俯く。
「光紅は、幸せだったのだな・・・」
小さく涬が呟き、燦は大きくその言葉に頷いた。
精霊の里での母はいつも幸せそうに微笑んでいた。それは確かだ。いつも優しい瞳で俺を見つめて、そしていつも―――?何かが燦の記憶を過った。あれは何だったろう、確か母が何か呟いて・・・
そんな事を一瞬考えていると、その考えを打ち消すかの様に隼が燦の肩に縋りついて来た。
『酷いでしょ、涬ったら。光紅には優しかったのに、あたしにはいつも』
「隼も、母を知っているのか―――そうだよな、そりゃ、そうだよな・・・」
自分の知らない母を知っている人達がこんなにも居る・・・燦はくすぐったい感覚を胸に感じ、そして想い出の中の母を思い浮かべた。