「殺された・・・」
「先代の土王さまと闇王さまが―――?」
烟と流迦の悲痛な声が上がる。
2人は生まれた時から王宮に居るのだ、面識も勿論有ったかもしれない。だが、自分は―――――。
燦は何とも言えない気持ちになりながら、それでも隼の次の言葉をただ待った。
『ええ、殺された。それも、土王の一族の者と、闇王の一族の者・・・・一族の者の反逆か、陰謀か―――さぞ、無念だったでしょう』
隼の声は静かだ。だがそこには何らかの感情が隠されている気がする。
一族の者・・・それも自分に近しい者に殺された。それは余りにも衝撃的で驚くべき事だ。
だが、どうしても声を発せない。そんな雰囲気が彼女を包んでいる。
『陰の一族は――本来天界の者全ての死を司っている。尊厳なる死を。最後の安らかな時、闇は優しく彼の者を包み、土は彼の者を聖なる土、聖域に変えて行く。そして水の恵みでその場所は繁栄し、守られる』
「・・・・」
『陽の一族も、陰の一族もお互いを尊敬していたわ。遥かなる時の中での生と死。まさしく相反する一族達なのですもの。綾迦達が王になった時も―――まぁ、一悶着は多少有ったけれど、それは仲が良かったわ。陰陽それぞれが一堂に座する事など、確かに滅多に無かった。だけど―――綾迦達は過去において一番多く陰の一族の皆と会っていた筈よ。だから流迦も烟も覚えているでしょう。小さい時に会った事は必ず有るわ』
「「・・・はい」」
『優しい、王達だった・・・・土王も闇王も。彼らが殺されたと知った時の綾迦達の悲しみや怒りは計り知れなかった。―――ええ、陽の宝剣を使おうとするほどまでに』
「で、ではッ!死者を生き返らせようと、した、と言うの、で、ですか?それに何故土王と闇王の一族がその殺害に関わっていると解ったのですか?」
烟のどもりながらの問い掛けに隼はゆっくりと首を振った。
『いいえ・・・正確には生き返らす事は出来なかったのよ。土王と闇王は・・・・』
隼はそこで一旦言葉を止め、辛そうに言葉を出した。
『土と闇の宝剣で殺されたの。そう、そしてその剣を使う事が出来るのは、一族の者のみになる。その剣を使い、あの優しい王達をッ・・・―――人の身に落とされた王達は、この天界にまだ巣食う妖・・・それに生きながらに食われたのよ』
隼の声はもはや慟哭に近かった。身体中から言い様の無い哀しみ、そして怒りが溢れ出している。
「く、食われた・・・・?」
烟が呆然と呟くと、流迦はその言葉の意味を理解し、燦の腕にふらりと倒れ込んだ。
「食われた、のでは無く・・・食わしたの間違いだろう、隼」
『―――我が君・・・』
「天界にまだ多少なりと妖が巣食っているのは知っている。だが、王宮には結界が張っているんだ。そんな簡単に人の身に落とされたからと言って食われる訳は無いだろう!」
流迦の身体をしっかりと抱き抱えながら、燦は身体中の血が湧きあがる衝動を何とか抑え付け、隼に問い掛けた。
『ええ。そして綾迦達は先代の土王を殺したのは今の土王と―――確信している』
隼の言葉に燦の身体が慄いた。耐え切れない怒り―――なのだろうか。
何故、焔が土王からの婚姻を、例え妾妃だからとは言え、あれ程の怒りを持ったのか・・・そこには焔の友人を殺された、そんなやり場のない怒りも含まれていたのでは無いだろうか。
父の胸中はいかばかりだったのだろう。
「隼・・・他に、助けられなかったのか?何か方法は無かったのか?」
『我が君―――・・・ええ、本当はもう1つだけ有った。風の力を使えば・・・いいえ、綾迦が使えれば、助けられた』
使えれば・・・・?
「どう、言う事なんだ?」
『天界の強い王族や精霊・・・それに人界に影響を及ぼす者は垣根無しに人界へ行ける。それは解るでしょう?』
確かに、華精達は人界の花々を咲き誇らす為、緑精も木々を栄えさす為・・・その他数多の精霊が人界へと降り立つ。
そして時期がくればまた天界に戻り、その力を戻し、また人界へと降り立つ・・・。
『その中であたし達がどうしても行けない場所・・・それは幽界と冥界よ』
「幽界、と冥界?」
『そう、それは人が死んだ時に行く場所よ。それは人しか通れない』
「人の身で、死んだから先代の土王と闇王はそこへ行ったって事か?」
燦の言葉に隼は頷きで肯定した。
『だけど、風の一族の中で、継承されて行く力が1つだけ有る―――それは幽界、そして冥界への道を開く事が出来る力。更に言えば、生き返らす事すら可能よ』
それが、風の・・・?
『勿論、条件は幾つか有るわ。簡単な事では無い―――綾迦はその時、1つの条件を叶える事が出来なかった・・・』
そして寂しそうに流迦を見つめ、小さく息を着いた。
「それは・・・」
『言えないわ』
隼の素早い返答に、燦は答えに窮した。だが、先程の言葉の最後に隼は確かに流迦の顔を見つめていた。
流迦が何か関係有るのかもしれない・・・そう考えると燦は今は追及してはいけない、そんな気がしていた。