「君が・・・隼?」
燦がゆらゆらと空中に漂っているその精霊に声を掛けると、ぼんやりとした陽炎の中に居る女性がにっこりと微笑んだ。
半透明だが、その美しさは並外れている。
『そうよ、我が君』
「あ、燦さま・・」
突如現れた精霊に流迦の声が震えながら燦を呼んだ。烟に至っては口をパクパクと動かし、その隼を指差している。
『ま!流迦!久しぶりね。大きくなって・・・うん、美人に育っちゃってまぁ』
「隼さま・・・昔お母さまと共に遊んで下さったままね・・・!」
『ん?ま、まあ、精霊だからね』
「昔は人型になって下さったのに、今は?」
『人型が良いの?うーん、でも、燦の力がね』
精霊――隼は困った顔で微笑みを流迦に返すと、燦に視線を送った。その視線に燦ははっきりと頷き返す。
『意地っ張りなんだか、見栄っ張りなんだか』
満面の笑みを燦に向けると、隼の周囲に風が巻き起こり、ぎゅるぎゅると凝縮して行く。
ゆるやかな風の動きとどんどんと女性になって行くその幻想的な場面を燦と流迦、そして烟は固唾を飲んで見つめる。
やがてすとん、と軽やかな音と共に、陽炎だったその女性がはっきりと形を伴い流迦の傍らに降り立った。
その瞬間―――。
―――な、何だ?
燦の身体を急激に疲労感が包む。
『精霊を人型に具現するのはとてつもなく力を消費するのよ』
呆れた声で隼が燦の肩を叩く。燦は隼を見上げ、しかしその姿を見ると、思わず眼を逸らし、みるみる内に真っ赤になった。
『全く、無茶するわね』
「あの、隼さま・・」
流迦が顔を赤らめ、隼に話し掛ける。
『なあに?ああ、久しぶりだから?もう、そんなに赤くならなくても』
流迦の頬が紅潮しているのに気付き、その頬を撫ぜる。
「いえ、あの、その」
『なあに?嫌だ、我が君まで真っ赤じゃない。どうしたの?』
「隼さま、あの」
「隼―――頼むッ!服を着てくれッ!!」
燦が顔を背けながらやっとの思いで彼女に告げると、流迦は困った顔で隼に微笑んだ。
『あら――まぁ――』
何と可愛いこと。隼はそう呟くと、周囲の風を右手を上げて集め、身に纏わせた。
『こんなものかしらね、流迦』
「ええ、それで充分です、隼さま」
流迦の安堵の声に燦は背けていた顔をやっとの思いで隼に向けた。
何とか、裸体では無いものの、ぴったりと身体に沿ったその服は余り先程と変わって無いようにも感じる。
『さぁ、我が君、先程の咲良の血を飲みなさい。それで疲労感はだいぶ良くなるわ。それから話を始めましょう』
「だ、だが・・・これは咲良さまの大事な・・・」
『飲むのよ』
有無を言わせぬその威圧感に燦は渋々咲良の血―――金色の血の涙を口に運んだ。
思いがけず甘いその味に先程の疲れが吹き飛んでいく。
「――凄い」
『全く・・・余り手を煩わせないでね』
隼はこれ見よがしに大きく息を吐き出すと、咲良の傍に近付きその傷付いた手を優しく取った。
そしてその傷口を塞いである布を外すと、その傷口に優しく息を掛けた。
すると、ぱっくりと開いて有ったその傷口がゆっくりと塞がって行く。
『これで良いわ』
「治癒まで出来るのか・・・」
燦が嘆息交じりにそう呟くと、隼は困った顔で頷く。
『華の一族の様に万能では無いけれど、ね』
「それでも!ありがとう、隼・・・」
燦の心底嬉しそうな声に、隼は戸惑いながらも笑顔で答えた。
『さぁ、本題に入りましょう、我が君。まずは何から片付けましょうか?』