キラキラと光の反射を続ける咲良の血は金色に輝きながら咲良の手の平を伝って落ちて行く。

素早くその1つを拾い上げると、咲良は緋冴の口元にその涙型の金色の血を運んだ。

「緋冴さま、飲んで下さい」

そう言うと、緋冴の口の中に金色の血をポトリ、と落とした。

ほ、と咲良が小さく息を着くと、流れ落ちる血にまみれたその手の平に己の服を破り、巻き付けた。

辺りには咲良の金色の血が何粒も零れ落ちている。

「燦さま、どうぞこの金色の血をお持ち下さい」

「さ、咲良さま・・・」

「華の一族には効かないのですが―――しかし他の一族がこれを飲めば、いかなる傷をも治し、疲れを癒してくれます。さ、私は手が痛くて拾えません・・・申し訳無いのですが、拾って頂けますか?」

咲良の掠れた声に、燦は慌てて流迦から離れ、その金色に光る粒を拾って行った。

しゃらり、と微かな音を立てるその粒を拾い上げながら、燦は自責の念に駆られて行った。

―――こんな事では駄目だ。

何て自分はちっぽけなのか。緋冴だけでは無く、咲良にまで身を傷付けさせ、流迦の心を傷付けさせ・・・

「燦さま、先ほどいかなる傷をも―――そう申し上げましたが、今回は私の血は余りにも少ない・・・だから命に関わる傷には効きません。それを―――それだけ、は―――」

咲良の声がどんどん掠れて行く。

ハッと彼女を見ると、手の平に巻かれた白い服がどんどん朱に染まっていた。

「烟、すぐに手当を!」

「あに、うえ」

先程少女に言われた言葉に放心しているのか、烟の眼は虚ろだ。

「しっかりしろッ!今はお前しか居ないんだッ!」

燦の叱責に烟は眼を見開き、慌てて咲良を抱き抱え、火宮に走りだした。

「流迦・・・お前も」

燦は緋冴を抱き抱えると、流迦を伴って火宮に入った。

寝所に緋冴と咲良を横たえ、咲良の手当てが済むと、燦は項垂れる流迦の肩を抱いた。

「ごめんな、俺が弱いから、こんな事に」

「燦さまのせいでは有りません――私、自分を恥じているのです」

「止めろ。―――気にする事じゃ無い」

「―――いいえ」

流迦はゆっくりと燦を見上げると、その瞳を真っ直ぐに見つめた。

「あの方の仰った通りです・・・害意は無いとは言え、私も聖域を破った。―――?」

そう言うと、流迦は何かに気づいたかの様に燦の腕を掴んだ。

「私も―――知らず知らずに水の結界を破りました。水の王子達はそれを私が風の一族と知って納得されましたわ・・・。もしやあの方は結界を破る力が備わっているのでは無いでしょうか?だから・・・!」

「確かに・・水の王子はあの時確かに―――」

燦は水の王子と対面した時を思い出そうと考えを逡巡させた。

「考えても仕方無い。水の王子に会いに行こうと思う」

「涼さまと鴻さまに?」

流迦の言葉に燦は大きく頷いた。

「陰の一族の事は彼らに聞いた方が早い。そう思う。それに彼らなら、先程の彼女の事も知っているかもしれない。だいたい、何故あの少女は、流迦が聖域に入った事まで知っている?もしや彼らが彼女に話したかもしれない。可能性だけだけど、行ってみる価値は有る」

だが、どの様に水の王子に会うか。それが問題だ。あの聖域に居るだろうか。もしくは水の王宮か―――。

どちらにしても陰の一族の治める地域には簡単には入れない。場所すらもハッキリとは解らないのだ・・・。

燦は頭を抱え込みたい衝動を抑え込んだ。

綾迦さまに頼むか―――きっとあの女王はこの状態をも見守っていてくれている。

燦がそう考え出すと、刹那、頭の中に声が響いた。

『甘ちゃんだね、燦』

―――だれ、だ・・・?

思わず燦が周囲を見渡すが、そこには驚いた顔で燦を見つめる流迦と烟しか居ない。

『何やってるの・・・。全く。綾迦に言われて燦の精霊になってあげたでしょ?』

―――隼?隼なのか?

燦が心の中でそう思うと、くすくすと笑い声が頭に響いた。

『そうよ。さっきの無様な戦い方は何なの?弱過ぎだって』

―――・・・

『あたしを使役することすら今の燦には無理だね』

思いがけない最初の隼との対話が叱責から始まるとは―――、燦は思わず唇を噛み締めた。

『綾迦は確かに見てるけど、手は出さない。あたしを燦に手渡した時、綾迦は燦を認めてるんだ。自分で何とかしなきゃね、燦』

―――でも、解らないんだ・・・

『その為にあたしが居るんだってば。解んないかなぁ』

―――でも、今の俺じゃ・・・

『今回は1つ貸しにして上げるよ―――さぁ、我が君、燦。呼んで、あたしの名前を』

「隼・・・・?」

恐る恐る、燦が隼の名前を口に出した。

『声、ちっさ!しかも問い掛け?全く・・・・』

ぎゅん、と燦の身体から何か大きな力が蠢く。それは体内でぎゅるぎゅると円を為し、どんどんと大きくなって行く。

「うあ!」

堪らず燦が声を上げると、ズン、と大きな音が体内で響き、そして急速に身体が安定した。

『ハイ、我が君。初めまして、って言うべきかしら?全く―――あたしを具現化するだけで悲鳴上げてちゃ駄目よ?』

燦がその声の方向を見上げると、ゆらゆらと陽炎の様に揺れ動く精霊・・・隼が燦の眼前に揺らめいていた。