燦の結界に包まれると、先程までの熱さや、眼に見えていた紅い熱気もパタリと無くなったかの様に感じられた。

「―――は・・・」

思わず流迦がほっと息を着くと、燦がまた流迦の髪をくしゃくしゃと撫でた。

「父上、どうかお怒りをお納め下さいませ」

緋冴が焔の前に跪き、頭を下げているのも見える。

「火王どの。いくら貴方さまがお怒りになっても、我が土王さまからのこの縁談、是非とも・・・」

「何度言われても答えは一緒だ。断る」

火王に対面して居る使者・・・流迦の目にはほっそりとした若い青年に見える。

その青年には怯えも、火王の圧倒的な力に屈する様子は微塵も無い。

「緋冴を――――正妃では無く、妾に寄越せと抜かすなどッ!身の程を知れ」


焔の余りの剣幕も理解出来る―――燦と流迦は互いに頷き合った。

有ろう事か、土の一族は緋冴を妾に出せ、と抜け抜けと言い放ったのだ。

誇り高い焔の事、男装しているとは言え、眉目秀麗なこの愛娘を誰が妾になど・・・。

緋冴は怒りを抑えているのか、その表情は流迦には窺えない。

―――緋冴さま・・・何て酷い事・・・。

「お父さま、どうかお怒りを抑えて下さいませ。そして―――お願いです」

流迦のその悲痛な声。そしてその先に続く言葉を焔は理解出来ているのだろうか。

「・・・ご使者どの。取りあえず話は解った。早々に引き揚げてくれ」

「承知。ではこのお話、どうぞよしなに・・・」

使者は嘲るような笑みをその顔に湛えたまま、下がった。


―――重苦しい沈黙が周囲を包む。

「緋冴。安心しろよ。お前を土の男なんぞにやるかッ」

吐き捨てるように焔が言うと、緋冴は放心していた顔をハッと真顔に戻した。

「しかし・・・何だって私を・・・」

「土の王はどんな方なの、お父さま」

流迦の声には明らかに怒りが含まれている。緋冴を妾にする、ただその言葉に流迦は軽蔑していた。

「前の土王は―――死んだ。そして息子が継いでいる」

「息子?」

「良い噂は聞かん。それもここ、陽の一族達の治める方まで噂が飛んで来るくらいだ」

「それはどの様な?」

緋冴が訝った声で焔に問い掛けた。

「―――聞かんで良い」

焔の言葉が終るか終らないかの処で、部屋の外から慌ただしい足音が聞こえて来た。

「流迦ッ」

声の主―――龍迦、咲良、烟だ。

龍迦さまを連れて来てくれたのか・・・燦はほっと息を着いた。蒼迦だったら・・・。

「流迦、落ち着いて聞きなさい」

「は、はい」

「土の王がお前に求婚してきた」