確かに、烟の言う通り、流迦―――風姫が舞う。ただそれだけの事かもしれない。
しかし・・・。
燦がそう考えこんでいると、部屋の外から切羽詰まった声が聞こえて来た。
どうやら緋冴付きの女官らしい。部屋に飛び込むと、息を切らしながら緋冴の姿を探し出し、その姿を認めると声を出した。
「緋冴さま、緋冴さま!」
「どうした・・・一体何事だ?」
「そ、それが。今しがた土の一族のご使者さまがいらっしゃいまして・・・あの・・・」
「土?土の一族が?」
「ご縁談の申し込みに・・」
「「「「縁談ッ!!!???」」」」
女官の意外な話に燦たち、その場に居た一同が思わず声を出した。
「それで、その・・・火王さまがご使者さまのお話をお聞きしましたら、烈火の如くお怒りに・・・どうか、お止め下さい!このままだと、ご使者さまを―――」
女官の話を最後まで聞かず、緋冴と燦は部屋の外へ飛び出していた。
その速さに唖然としていた流迦と咲良、そして出遅れた烟は後を追い掛けようと立ち上がった。
部屋を出ると、すさまじい熱を感じる。
堪らなく熱い。
火王の怒りがここまで伝わって来るようだ。
土の一族・・・一体何を話したのか・・・
流迦と咲良はお互いに顔を見合わせると頷いた。
「流迦」
「解ってる」
咲良の声に流迦は右手を正面に差し出すと、ほんの少し力を込めた。
手のひらからは何も発されてはいない。しかし、流迦の正面に風の渦が出来ていた。
「ふっ!」
流迦が小さく声を上げると渦は廊下の最奥まで突き抜け、熱を散らした。シュッとした音の後の静寂には何も残っていない。
「す、すごい・・・」
後方から烟の感嘆する声が聞こえたが、流迦は振り返らず走りだした。
「咲良、疾馬を出すわ。烟さまとすぐに風宮へ行って頂戴。そしてお兄さまを!」
―――龍迦さまか、蒼迦さま―――どちらを?・・・咲良の脳裏に一瞬そんな考えが過ったが、心の隅に押しやる様に頷く。
「お父さまがご使者さまをもし傷付けてしまったら・・・大変な事になってしまう・・・」
「そうね、諍いを求めると言われている陰の一族・・・・小事でも大事になってしまうわ。さぁ、烟さま」
咲良は烟を促すと、流迦の疾馬に飛び乗った。
「北風王―――お願い。風宮へ!」
流迦の声に美しいその神獣は大きく空へ駈け出していた。
その姿を見送ると、流迦は燦たちが向かったであろう部屋に向かった。
有る程度熱を撥ね退けたつもりだったが、部屋に近付くにつれ、じりじりとした熱さがまた流迦の体に伝わってくる。この熱では、烟ならともかく、咲良では倒れてしまっているだろう。
流迦はまた小さく身体に力を込め、少量の風を身体中に纏わせた。
こうしておけば、多少の熱なら防げるはずだ。
「お父さま!」
流迦が部屋に足を踏み入れると、目に見える紅い熱が部屋中に立ち込めていた。余りの熱さに眩暈を感じる。
「父上ッ、お怒りをお納め下さい!」
燦と緋冴の声が聞こえるが、全くどこに居るのかも解らない。
「お父――さ――、ま!」
流迦が声の限りに叫んでも、喉が熱さで全く出ない。
慌てて流迦は焔に近寄り、跪いた。
「お父さ、ま―――」
「流迦、危ない!離れろ!」
燦の腕が流迦の身体に触れると、そのまま流迦を掻き抱いた。
「燦さまッ」
「大丈夫だ。まだ父も力は2割くらいしか出してないんだ。火のものなら耐えられるが・・・流迦は半分しか火の血が入って無いから―――おいで」
そう言って手を差し出す燦の言葉に流迦は頷き、燦の胸に飛び込んだ。
「結界を張るから、傍を離れるなよ」
「はい」
胸の中で燦を見上げる流迦の髪をくしゃりと撫でると、燦は結界を拡げる為、身体に力を込めた。