「それで、どうなったんだ?」
「それが―――それでその、お話は終わったのです」
燦の火竜に乗りながら、流迦は先日の闇姫、朧の話を語っていた。
火の宮の緋冴から流迦にお茶の誘いが有ったので、燦が迎えに来てくれたのだ。
「―――闇姫、ね」
「はい・・・それからお母さまはこの間の黒い穴の事を朧さまに問われていました」
「あの、流迦が落ちそうになった穴の事を?」
「はい。何か知らないか、と・・・」
流迦の話を聞きながら、燦は直感的にその闇姫があの黒い穴の事に関わっている事を感じていた。
そして綾迦もそう感じている、とも。
「しかし、大胆な姫だな。わざわざ風宮まで来るなんて」
「龍迦兄さまや蒼迦兄さま・・・どうなさるのかしら」
「さあ、な・・・」
燦は火竜を旋回させると、手綱を離し、流迦を背後から抱き締めた。小さく流迦の嘆息が聞こえる。
「燦さま・・・」
「元気出せよ」
燦は流迦の耳朶を軽く噛み、頬に口付けを落とした。
「もう・・・燦さま・・・」
「姉上も前回の龍迦さまの態度が気になっているみたいだ。だから今回流迦を呼んだのでは無いかな」
流迦は燦の言葉に頷きで同意を示すと、燦の腕にそっと自分の腕を絡めた。
「流迦?」
「何か、嫌な事が起こりそうで、怖い・・・」
「――――守るよ。お前だけは」
燦は強く流迦の身体を抱き締めると、そのまま流迦の顔を向け、その愛らしい唇に口付けを落とした。
火の宮に着くと、まずは焔と烟から熱烈な歓迎を受けた。
流迦が風宮から出る事など滅多に無い事だから仕方の無い事かもしれないが、余りの歓迎ぶりに逆に委縮してしまう。
「父上、流迦が困っているでは無いですか」
呆れた声で燦が焔を諫めても、焔は止める気配も無く流迦を抱き締め続ける。
「この馬鹿父上ッ!!!流迦を離しなさい!」
「姉上」
「あ、緋冴・・・」
緋冴の大声に焔はやっと流迦を解放してくれた。苦しかった呼吸を何とか抑え込むと、流迦は涙目になりながら緋冴に笑顔を向けた。
「ひ、緋冴さま…お招きありがとうございます」
「全く・・・良い歳をして・・・すまんな、流迦。大丈夫か?」
緋冴はふらつく流迦の身体をそっと片手で支えると、焔を一瞥した。
「父上・・・・全くあなたと言う方は・・・」
「良いのです、緋冴さま。お父さまごめんなさい。少し驚いただけなの」
「相変わらずだな、流迦。さあ、向こうへ。皆でお茶にしよう」
「ええ、緋冴さま」
流迦は優しく緋冴に微笑みを向けると、燦から差し出された手を取った。
「――――・・・おい、燦。何だ、その自然な手の出し方は」
「駄目ですか?」
焔の問いに流迦は首を傾げて焔を見つめた。
「いや、駄目では無く・・・何だ、この会話?」
「父上、もう黙ってて下さい。馬に蹴られますよ」
緋冴がにんまりと笑うと、焔はみるみる表情を変えた。
「ま、まさか・・・まさか・・・―――お前ら・・・」
焔が燦と流迦を交互に見つめると、燦は小さく頷き、流迦の肩を抱いた。
その行動に流迦は頬を赤らめ、燦を見つめている。
「―――ゆ、許さんッ!!!嫁には出さ―――――ん!」
「おい青藍」
『何ですか、風矢さま』
「今、焔が壊れたぞ」
『また流迦さまの事見られてたのですか?』
「焔が悲痛な声を出すからだ。全く―――本当の子供でも無いのに」
『焔さまはお優しい方なのですよ。だからこそ皇さまや煌さまでは無く、焔さまを流迦さまの義父になさった癖に』