咲良が去った後、燦と流迦はお互い何も話さずに、ただ見つめ合っていた。


咲良の足音が耳に入らなくなり、束の間の静寂が訪れると、流迦は口を開いた。


「燦さま・・・あの、ごめんなさい」

「何が?」

「盗み聞きするつもりは無かったのです。でも、あの…気になって」


そこで言葉を切ると、流迦は真剣な眼差しを燦に向けた。その瞳の光の強さに思わず燦はたじろぐ。


「何が気になったって?」

「ですから・・・それは・・・」


流迦はほんの少し拗ねた様に燦から視線を反らし、そして小さく呟いた。


「もう良いです」

「何だよ、気になるな」

「・・・・」


燦の笑顔に流迦の胸がざわつく。

そろそろと瞳を上げるといつものように私を優しく見つめてくれる燦の瞳と視線が絡み合った。

瞬時に頬が熱くなってくる。

燦の燃えるような紅い瞳が私を見つめている、と思っただけで身体の真奥から何かが込み上げてくるようだ。


「あー・・・そうだ。流迦、あのさ。えー・・・うん、あの、な」

「・・・・?」


燦が急にしどろもどろになりながら口調を濁し、流迦は訳が分からず燦を見た。

見ると、燦は照れた様に笑い、それから流迦の頭を撫でた。


「その・・・すっげぇ綺麗だったから。本当に」

「・・・舞の事ですか?」

「うん。見惚れた」


見惚れた。その言葉を聞くや、流迦は身体中から火が出るのでは無いか、とばかりに赤くなり、俯いた。

白い肌が桃色に変化して行くのが見て取れる。それを自身の目で確認すると、恥ずかしさにまた赤くなって行く。


悪循環だわ・・・

恥ずかしさもさる事ながら、燦の言葉にこんなに簡単に一喜一憂してしまう自分が良く解らない。


「あんなに、綺麗なんて思わなかった。やっぱり歌と舞が凄いんだろうな」

「歌・・・?」

「咲良さまも凄い綺麗な声だったし、流迦も・・・」

「・・・咲良」


流迦が小さく咲良の名前を呟くと、胸から何かが零れ落ちるかのように涙が溢れ出して来た。

その様子に慌てて燦が流迦の肩を掴んだ。


「―ッ?何で泣くんだ?」


燦の言葉に流迦は唇を噛み締め燦を見上げた。

その流迦の泣きつつも美し過ぎる顔に燦は思わず息を飲み込んだ。

流迦は綺麗過ぎる。


「さ、咲良・・・」

「咲良さま?何だよ、一体」


嗚咽を堪え、必死に何かを訴えようとする流迦の肩に手を回すと、燦は自分の腕の中に流迦を抱き、優しくその手で背中を撫でた。


「あッ、ご、ごめん」


燦がやり過ぎたと流迦から身体を離そうとすると、流迦の腕がそっと燦の背中に回された。

その優しい感触に燦が動きを止める。


「・・・い、いや・・・離さないで、燦さま」


小さく燦の胸の中で流迦の声が呟かれ、燦は驚きながら頷き、離し掛けた腕を再度その華奢な背中に回した。