「見事な采配だったな、燦」

「龍迦さま・・・」


龍迦は軽く燦の肩を叩くと、吹き出しながら緋冴を指差した。

燦が緋冴を恐る恐る窺うと、予想通り、緋冴の膨れっ面が見える。


「・・・燦」

「姉上、すみません」


燦が頭を下げると、緋冴はその頭を腕で掴み、羽交いじめた。

「そんなに、怖いか」

「あ、姉上っ!話の流れ・・・うぎゃ!」

「ほれほれ」


燦を絞める腕は限りなく優しく、緋冴と燦は笑い声を上げながら戯れている。

龍迦はその姿を微笑みながら見つめていたが、ふと声を上げた。


「歌姫?」


その声に緋冴と燦が動きを止め振り返ると、咲良が踵を返して走り去る所だった。

そんな咲良の後ろから青藍がパタパタと飛んでいる。


青藍は何度もこちらを振り返り、どことなく助けを求めているかに見える。


「何だ?どうしたんだ?」

「・・・咲良も盗み聞きか?」

「姉上・・・咲良姫に限って・・・」


燦の言葉に緋冴は頷くと、咲良が走り去った方向を指差した。


「行け。何だか気になる」


緋冴の言葉に燦は小さく頷くと、龍迦に頭を下げ、咲良の後を追った。


少し前に青藍の艶やかな翼が見える。その前に咲良も。

ふわりとした服のせいか走り難そうだ。


「咲良さま!」

燦は走りながら前を走る咲良に声を掛けた。

その声に咲良はぴたりと動きを止め、その場に立ち尽くした。


青藍がふわりと燦の肩に留まり、口早に囁いた。

『蒼迦さまと、ちょっと・・・』

「蒼迦さまと?」


「咲良姫、どうなさったのですか?」

燦は数歩下がった所で咲良に声を掛ける。後姿からは表情は窺えない。

その燦の言葉に咲良は首を振った。


『咲良さま・・・』

心配そうに咲良の名前を呟く青藍は何度も急かす様に燦の頬をその嘴でつつく。


「そんな事言っても・・・」

『そんな事とはどんな事ですかっ!』

「何だ、その屁理屈!じゃぁ、どうすんだッ!」

『考えて下さいよ!』

「あ、人任せか!人任せなんだな!」

『なっ!』


燦と青藍の言い合いがどんどん熱を帯びた頃、小さく笑い声が上がった。

見ると、咲良が可笑しそうに燦と青藍をに向かって笑っている。


「ごめんなさい、笑ったりなんかして」

「いえ・・・す、すいません。思わず」

『全く、燦さまは・・・』


お前が言うな、と青藍を軽く睨み付けると、燦は咲良に近寄った。

咲良の頬に少し筋が残っている。


泣いてたのかな・・・


「別に、何でも無いのよ、燦さま。・・・・・ただ」

「ただ?」

「少し、切なかっただけなの」


その咲良の言葉に燦は返事に窮した。切ない、と言う言葉は余りにも抽象的すぎて、どういった感情なのか、良く解らない。


「燦さまは・・・誰かを好きになったこと、有る?」

「え・・・・・」