「誤解ですって!?」
萌は怒りを滲ませながら燦を睨み付けた。
「そんな見え透いた戯言、誰が信じるものですか!」
涙に濡れた頬を隠そうともせずに萌は燦の話を聞こうともしない。
自分が一番正しいとでも思っているのだろうか、だがその行動は余りにも幼く、燦はつい先日までの自分と重ね合わせながら萌を見つめた。
「燦の言う事は本当だよ。萌姫。戯言だと思うなら母上や・・・そうだな、直接火王に聞いてみるかい?」
龍迦は静かに言葉を発してはいたが、その言葉の裏にほんの少し棘を感じる。
萌が風王や火王に直接そんな事を聞ける筈は無いのだ。
どうせ、そこらの下らない戯言を鵜呑みにしたに違いないのだから。
「・・・燦の名誉の為に言っておく。燦の母君は風王綾迦さまの友人だ。そこいらの精霊と一緒にされては困る。それに燦は庇護など申し出てもいない。度重なる火王からの願いに王家へ出て来たのだ。それを・・・」
緋冴は幾分怒りを閉じ込め、静かに萌に告げた。
湧き出る静かな怒りは隠し通せるものでも無かったが、それでも、先ほどよりはまだマシだ。
「緋冴。もうその辺で良いだろう」
「龍迦。お前はそう言うが、」
緋冴は一旦言葉を切ると、龍迦に艶然と微笑みを向けながら呟いた。
「お前とて。舞姫をこのように馬鹿にされては黙っておらぬだろう」
大事な弟なのだ。緋冴の瞳はそう語っているようで、龍迦は大きく溜め息を着いた。
いかんせん、緋冴は掛け替えの無い幼馴染であり、友人だ。
女の友人、と言うよりもまるで男友達の様に育った。
緋冴が弟思いなのも、龍迦や蒼迦の影響も少なからず有るのは間違い無い。
しかも、萌の一言は聞き方を変えれば火の一族全体を馬鹿にした発言とも取れる。
それに、光王、華王、火王も綾迦に思いが遂げられなかった今、精霊を正妻に迎えているのだ。
まかり間違えば、王族全ての怒りを買うかもしれない。萌自身も精霊を母に持つ身なのだ。
自分の母は身分が違う・・・とでも考えているのだろうか。
この状況を打開するのはなかなか難しいかもな、と龍迦は考えていた。
しかし、緋冴もこの事は良く理解して居る筈だ。
確かに、萌のこう言った我儘な態度や、相手を馬鹿にする発言に歯止めをかけるならば、今この時しか無いかもしれない。
自分達だからこそ、この位で済んでいる事もまた間違いは無い。
緋冴がどこまで洞察しながら行動しているかはまだ測りかねたが、やはり緋冴に任す方が良いのかも知れない。
龍迦はそう考えを巡らせると、緋冴の美しく、しかし静かな怒りを含んでいる横顔に、瞳を向けた。
大丈夫、だ。緋冴ならば。
自分の幼馴染はそこまで軽はずみな行動は起こさないだろう。
龍迦はそう確信も持つと、姉を宥めようと画策する燦の肩に手を置き換え、その不安気な表情に力強く頷いて見せた。
その龍迦の頷きに、多少の戸惑いを隠し切れずに、燦も頷く。
龍迦はその燦の態度に満足したかのように微笑む。
「・・・・どうして・・・」
萌がか細く声を出し、泣きながら緋冴に向かって両手で自分を抱き締めた。
「どうしてっ!!!萌ばかり責めるのっ!悪くないわっ!萌は悪くない!!」
ボロボロと涙を零し、しかし大声で萌は喚き散らすと、そのまま床に崩れ落ちた。
その様子を緋冴と龍迦は静かに見つめてたが、燦だけは思わず萌に駆け寄り、その背に手を置いた。