龍迦はどこまでも穏やかに燦と話を続けていた。
じっくりと燦を見てみると、流迦が好意を寄せるのも解る気がしていた。
端正で精悍な顔立ち、筋肉が程良く付いた均整の取れている体付き・・・。
照れた様に微笑む姿は龍迦が見ても可愛らしい。
可愛い、等とは男に言われたら傷付くだろうな、とも龍迦は思う。
ああ、そうか。初々しいのかもしれない。
純粋な微笑みはまるで疑う事をしないかの様に龍迦に向けられる。
流迦が絡んでいなかったら、龍迦は殊の外、この燦を弟の様に可愛がっていたかも知れない。
そう考えると、龍迦は心の中で小さく首を振った。
「燦、君は華祭には来るのかい?」
「華祭ですか・・・いえ、まだ父上からも何も言われてませんし、はっきりと決めてはおりません」
燦の言葉に龍迦は満足気に頷く。
「では、華祭にはぜひ参加して貰いたい」
「さ、参加・・・?」
燦の驚いた顔に、小さくああ、と呟くと、龍迦は小さく頷く。
「参加とは言え、別に見てれば良いだけだ。華祭には君に力を貸して欲しい」
「力・・・ですか?」
燦は訝しげに龍迦に答えた。
龍迦の言葉の意味を解らず、困惑する表情を浮かべている。
「ああ・・・頼みたい」
「・・・・」
燦はしばし考えを逡巡させた。
龍迦の表情は穏やかなままだが、瞳は真剣に燦を見詰めている。
龍迦の愁いに満ちた表情からは龍迦の考えは全く読めないが、自分に頼み事をする事自体が重大な事柄を示唆している様で、燦は躊躇っていた。
「あの、頼みって何、ですか・・・」
燦が躊躇いがちに言葉を選びながら、龍迦に問い掛けた。
「ああ、それは・・・っ」
龍迦が燦に話しだそうとした瞬間、龍迦は驚いた顔で息を飲んだ。
怪訝に思った燦が龍迦の視線の先を見ようと振り向くと、そこには白亜の石柱に隠れ切れてずに見えている少女が慌ててドレスの裾をはためかせて、隠れた所だった。
あれは、確か・・・
「萌姫・・・」
呆れた声で龍迦が片手で額を抑え、溜め息を着く。
どうやら、ずっと隠れ見ていたのだろう。
ふう、と大きく息を着くと、龍迦は燦の肩を軽く叩き、大きな歩幅で萌に近付いて行った。燦は数歩下がってその後に続く。
白亜の石柱に隠れている少女の前に立つと、龍迦はまたも小さく息を着きながら出来る限り優しく声を出した。
「萌姫。・・・・ここで何をされているのですか?」
その声に慌てながら振り仰ぐ少女はしどろもどろになりながら、龍迦の問い掛けに答えようと必死だ。
「あ、あの、私・・・あの、み、道に迷って。あの、だから、」
「聞いていたのですか?」
「・・・・・」
「そうですか、盗み聞きされていたのですね」
龍迦は憐みの光を一筋浮かべた。萌はその光に気付かないのか、龍迦の胸に縋り付いた。
「だって、龍迦さまが萌を構って下さらないから、だから・・・」
甘えた声で龍迦にしがみ付く萌を唖然と見詰めていた燦は、龍迦の静かな表情に慌てて萌に声を掛けようと身を乗り出した。
だが、それよりも早く、龍迦がゆっくりと萌の身体を自分から引き離すと、微笑んだ。
「いけませんね・・・そんな事をしては。仮にも光の姫ともあろう方が」
「だって・・・」
上目使いに龍迦を見つめる萌の瞳は、潤みきっている。
燦ですら、萌が龍迦にただならぬ感情を持っている事が解るくらいだ。
だが、何となく燦は萌に良い感情を持てなかった。やけに女の部分が出ているからかもしれない。
こんな風に人目関係無く、しかも見境無く甘えてくるのは、俺以上の世間知らずなのかもな。
燦はどことなく苦手なこの光の姫が自分を「邪魔よ」とばかりの視線を向けてくる事にも不快感を隠せなかった。