咲良が足早に立ち去って行く姿を見つめていると、青藍が慌てて咲良の後を追うため、羽ばたいた。


咲良・・・・

泣いていた。きっと。ううん。間違い無い。


流迦はそう考えると、同じく傍らに立つ蒼迦を睨んだ。

兄を睨み付ける等、初めての事だ。

その険しい瞳に気付いたのか、蒼迦は哀しげに流迦を見る。


「流迦・・・」

「咲良を傷付けるなんて・・・お兄さま、酷い」


自分でも意外なほど、流迦の声は冷たく響いた。


「・・・・」


困った顔で流迦を見つめ続けると、蒼迦は小さく溜め息を着く。


「そうだね・・・すまない」


蒼迦も苦しげに眉を顰める。


「泣いて、いたわ・・・あんなに大きな声を出さなくても良かったのに・・・」


実際の処、流迦は咲良の蒼迦に対する気持ちはまだはっきりとは解らなかった。

ただ、蒼迦が咲良を傷つけた事だけは間違い無い。


「泣いて?」

「そうよ!泣いていたわ!」


兄が咲良が泣いていた事を気づいて無かった事が腹立たしい。

思わず蒼迦に声を荒げてしまった。

周囲が多少気にはなったが、今は構っていられない。


「許さないわ・・・咲良が許すまで、私もお兄さまを許しませんから」


そこまで言わずとも良いのでは無いか、と不意に頭を過ったりもしたが、何故だかこの言いようの無い怒りに身を任せてしまいたかった。

咲良だけの事では無いのかもしれない。


自分が感情的になるのを恥じ入る気持ちも、勿論有った。

だが、なぜ愛する兄が大好きな咲良を泣かせたのか、私の事でなぜ咲良があんな悲しい思いにならなければならないのか・・・複雑な気持ちが流迦に襲い掛かって来ていた。


「ごめんなさい。だけど・・・私、今はお兄さまとお話出来ません」


流迦は絞り出すように言葉を出し終えると、「咲良が心配ですから」と蒼迦の傍から離れ、咲良の後を追った。


後に残された蒼迦は、何とも言えない表情を浮かべ、ただ、流迦を見送った。


愛するが故に、不器用になって行く自分にひたすら嫌悪感を感じる。

流迦もうっすらと涙を浮かべていた。

自分が泣かしたのだ。咲良も、流迦も。

そう考えると、拳をきつく握り締める。



「蒼迦・・・」

「烟」


不意に気遣うように蒼迦に烟が話し掛けて来た。


「大丈夫か?」

「・・・・ああ」


烟は遠慮がちにほんの少し微笑むと、蒼迦の肩を抱いた。


「元気、出せよ」


烟は囁くように呟くと、蒼迦は力無く微笑んだ。


「・・・許して貰えるよう、努力するさ」


その声はどこまでも頼りなげに感じられ、烟はただ、肩を優しく叩いた。