燦は静かに前を歩く龍迦の背中を見つめながら考えていた。
話、って・・・。
前の流迦を無理に浚った事だろうか、それとも先程の風霊の事だろうか・・・。
考えれば考える程、気持ちが落ち込んで行くのを感じ、燦はどんどん落ち込んで行く。
青藍も居ない。緋冴も、咲良も、もちろん流迦すら。
「そんな、心配しなくても、取って食ったりしないよ」
燦の心情を察したのか、龍迦が柔らかな微笑みを燦に向け、立ち止まった。
「綺麗だろう」
龍迦が立ち止まった場所から見える景色は緑が拡がり、辺りには緑精や花精達がふわふわと飛び回っていた。
皆それぞれ幸せそうで、燦は思わず頷いた。
「・・・私はね、流迦を愛しているんだ。勿論、1人の女性と、して」
静かに龍迦が燦に話し出した。
その表情はとても穏やかで、燦は頷く事で、返事を返した。
「燦・・・ああ、敬称は省かせて貰うよ。君が流迦を連れ去った前日まで、私はいつか流迦を妻に迎えたかった」
「・・・その節は・・・」
燦が思わず謝罪の言葉を述べようとすると、龍迦は手でそれを制した。
「もう、謝罪は受けた。だからもう謝らないでくれ・・・」
「は・・・」
燦が困った表情で俯くのを見ると、龍迦は再び話始めた。
「君が、流迦を連れ去った日・・・私と龍迦は父王達に流迦を妻に迎える許しを請いに行った所でね。・・・・君に水を差された気分だったよ」
龍迦は自嘲的な笑みを浮かべると、天を仰いだ。
「そして、君に会った・・・。面識は有ったが、話する事は無かった君の腕の中で、流迦は一際輝いて見えたよ」
本当に、美しかった・・・。
龍迦は思い出すかの様に瞳を閉じた。
「許せなかった。嫉妬で身が焦げそうだったよ。・・・そして母が来て、君は許された」
「はい・・・」
「あの時が初めてだったよ・・・母に刃向かったのは」
クスリ、と龍迦が笑みをこぼし、燦と視線を合わせた。
「そして今日・・・君は風霊を渡された。私や蒼迦が相手にもされなかった風霊をね。隼は君を受け入れた。いとも簡単にね」
「それは・・・風王さまが・・・」
きっと風霊に命令されて、だから・・・
燦が困惑した表情を浮かべると、龍迦は静かに首を振った。
「例え母上が命令しても、高位の風霊は従わない。それならば母に付き従ったままでいるだろう。隼は君を気に入った。自分を使役するにふさわしい、とね・・・」
扱いは難しいが、君の役に立つはずだよ、と龍迦は言葉を続け、燦の肩に手を置いた。
「君の母君の事だが・・・」
「は・・・?母ですか?」
「亡くなったそうだね」
「はい」
「・・・・・確か、高位の火精霊だったそうだね」
龍迦は燦の肩に置いた手をそっと離すと、燦から視線を外した。
「え、ええ・・・風王さまはそう仰ってましたが・・・自分は詳しくは知りません」
「・・・そう、か・・・」
龍迦は何かを考える様に瞳を伏せた。そしてゆっくりと視線を上げる。
「いや、少し話が逸れたね。すまない。母に聞いたよ。今日は流迦を救ってくれたそうだね。兄として・・・君に感謝している。勿論、男としては少し妬けるがね」
龍迦は微笑みながら燦に頭を下げた。
「いや、あの、そんな・・・顔を上げて下さい」
そこまで感謝される事でも無い。燦は急激に頬が熱くなるのを感じ、慌てながら両手で龍迦の肩を持ち上げた。
「いや、本当に・・・ありがとう、燦。・・・・もう少し話しても良いかな?」
「あ、はい・・・」
龍迦の謝辞を受け、まだ頬が熱いままの燦はほんの少し緩んだ表情で微笑んだ。