「お話、ですか?」
コクリ、と喉が鳴る。燦の身体から汗が噴き出して来る。
龍迦は穏和な笑みを浮かべながら力強く頷いた。
「ああ。少し、君と話してみたくなってね」
『龍迦さま・・・あの、ですね・・・』
青藍が困った声で龍迦と燦を交互に見る。
「違うよ、青藍。純粋に話がしたいだけだ」
龍迦が静かに青藍に告げ、その頭を指先で撫でた。
「燦、良い機会だ。ま、取って食われることも無いだろう」
緋冴が燦の緊張しきっている顔に呆れながら、燦を促した。
「ま、燦さまとだけなのかしら?私たちはお邪魔なのね」
「そう言わないでくれ、歌姫。後でゆっくりお相手させて貰うよ」
拗ねた表情を無流に作る咲良に龍迦は優しく手を取ると、甲に口付けを落とした。
その動きが余りにも優雅で、燦はこの間や先程までの怒りを含んだ龍迦の表情が、夢だったのでは無いか、と考えていた。
「気障・・・」
『はい・・・』
緋冴が溜め息を着きながら苦言を吐くと、青藍もそれに同意した。
「2人で、話したいんだ。ここは耳がたくさん有るからね・・・そうだ、少し外に出てみないかい?」
「・・・はい」
燦はゆっくり頷く。
燦の言葉に龍迦は微笑むと、燦の前をゆっくり歩き出しだ。燦もそれに続く。
2人が部屋を出ていくのを見届けていた緋冴は、2人の後をこっそり付けていく人影を目の端に捉えた。
・・・・萌。
ほっておくか、と考えたが、宵との約束も有る。
仕方有るまい・・・立ち聞きなぞは下衆のやることだが・・・。
「緋冴さま。行くの?」
咲良が小さく緋冴に問い掛けた。
「ああ」
「・・・・萌姫にも困ったものね」
咲良が息を着きながら緋冴に笑いかけると、緋冴は肩を竦めた。
「何だか、困った事になりそうね」
「宵が、な・・・幾分心配していたからな」
「まぁ。緋冴さまは宵光姫さまには弱いのね」
咲良の言葉に、お前にも弱いだろう、と小さく呟くと、緋冴は2人の後を追い掛けた。
後に残された咲良と青藍はその姿を見送ると、流迦と蒼迦の方へ歩み寄る。
『咲良姫・・・何故風王候補の事をご存じだったのですか?』
青藍が小さく咲良に問い掛けると、咲良は緋冴と同じく肩を竦めた。
「何故?変かしら・・・・」
『・・・・まさか、咲良姫は・・・』
「ソレしかないでしょ」
『・・・どこまでご存じなのですか』
「天界一の情報通よ」
青藍の真剣な問い掛けを軽くいなすと、咲良は小さく微笑んだ。
「それにしても、失言だったわ」
『燦さまや緋冴さまに話してしまったことですか?』
「・・・・まぁ、いずれ解ることだから・・・華祭まで時間がそんなに有る訳でも無いし」
『咲良さまはそれで良かったのですか?』
青藍の言葉に咲良は小さく笑うと、頷いた。
良いとか悪いとか・・・そんなこと関係無いわ・・・
大体、政略結婚なんて・・・・綾迦さまが許すハズが無いもの。
咲良は綾迦の妖艶な笑顔を思い出し、父が綾迦に手酷く怒られる姿を想像した。
その姿にきっと自分は笑い転げているんだろう、とも。
私ではきっと蒼迦さまの心は手に入れられないんだから。
咲良は胸に小さく拡がる痛みを押し込めながら、流迦と蒼迦の元へ進んだ。