流迦と咲良はお互い近寄るとお互いで抱き締め合った。
「素敵だったわ、流迦」
咲良は流迦の耳に唇を寄せながら囁いた。
「咲良のお陰よ・・・。こんなに幸せに舞えるなんて・・・」
ここ最近、苦しいだけだったはずの舞が、今日は全く違って舞えた。
咲良の歌のお陰に違いないわ・・・
「あら、きっと私のお陰じゃないわ」
咲良はにっこりと微笑むと、錫杖を進み出てくる女官に手渡した。
「さっきも言ったでしょ・・・見せたい相手を思い浮かべて心のままに舞いなさいって」
咲良の言葉に流迦は少し頬を赤らめると、もう、と咲良の肩をつつく。
「で・・・本当の所は誰に見せたかったのかしら」
「・・・秘密」
流迦は小さく呟くと、くるりと後ろを向いた。
秘密って・・・。
咲良は流迦の仕草に思わず吹き出しそうになりながら、何とか堪えた。
これ以上からかいすぎたら大事な幼なじみがへそを曲げてしまいかねない。
「風姫さま!咲良さま!何て素晴らしい!」
咲良が声に驚いて振り向くと、その声に触発されるかのように流迦と咲良は人だかりに囲まれてしまっていた。
「風姫さま・・・」
「あ・・・烟さま・・・」
流迦が困った声を上げている。火の王子、烟が流迦の手を取り、しきりに賛辞の言葉を述べているのだ。
あらあら・・・
咲良は周囲の話に相槌を打ちながら流迦の手を離そうとしない烟を冷静に見つめていた。
「風姫さま、本当に・・・・美しかった・・・」
「・・・・はい、あの・・・」
うっとりとした面もちで流迦に話し掛け続ける烟はどこか咲良には滑稽に見える。
直情型、かしら・・・ダメね、そんなんじゃ。
小さく溜め息を着くと、咲良は流迦の助けに入ろうと、体を動かしかける。
だが、その動きは凛とした声に阻まれた。
「流迦。おいで」
「お兄さま!」
烟との話を打ち切ったのは、心なしか表情が硬い蒼迦だった。
流迦は最愛の兄が傍らに立っているのを確認すると嬉しげに微笑む。
蒼迦が烟を見つめると、烟は慌てて流迦の手を離し、きまりが悪そうに蒼迦を見る。
「お兄さま、私・・・どうでした?」
「ああ・・・・素晴らしかったよ、流迦」
優しく微笑む蒼迦の言葉が流迦の胸にしみる。
良かった・・・。
心底、安心した。これで華祭も大丈夫だわ・・・。
兄の優しい笑顔に流迦は小さく頷くと、兄から差し出された腕に飛び込んだ。
蒼迦は力強く抱き締めると、流迦を腕に抱えたまま、ぽつりと呟く。
「ひとつ、聞いても良いか、流迦」
「はい。何ですか?」
蒼迦の胸にすっぽりと入ると、流迦はいつも安心してしまう。
大きな胸に頬を寄せながら、蒼迦の問い掛けを待つ。
「今日の舞は・・・・いつもと感じが違ったね。どうしてだい?」
「そ、れは・・・」
思わず流迦は言葉を詰まらせた。
その声に思わず流迦を抱き締める力が強くなる。
先程の流迦の舞は間違いなく恋の舞だ。
切なげな、それでいて心が沸き立つような・・・流迦を愛する蒼迦も、もちろん龍迦もあの舞に魅せられたはずだ。
そして、烟も・・・。見るもの全てが流迦に恋心を抱いたかもしれない。
そう考えると、蒼迦の胸の奥がジリリと灼けた。
「内緒よ、お兄さま・・・」
流迦が小さく呟いた。
「皆にかい?」
蒼迦の言葉に流迦は小さく頷くと、蒼迦も頷いた。
「あのね・・・」
流迦は背伸びして蒼迦の耳に近付くと、何かを囁いた。
流迦の言葉に蒼迦は一瞬目を見開き、だがやがて、その唇に笑みを浮かべると、流迦の頭を撫でた。