咲良の透き通る声が部屋中に響き渡る。

シャラシャラと錫杖の鈴が静かにその声に寄り添い、部屋の中を厳かに包み込んでいく。


「・・・すごい」

誰かが溜め息と共に小さく呟く。燦は声の方向を振り向かずに頷いた。


こんなに、綺麗な歌が有るのか?胸の中に響き渡るその歌声は燦を魅了して行く。

咲良の歌に合わせて、なのか、流迦は滑らかに身体を反転させながら、その柔らかな身体を存分に弾けさせている。


躍動的な動きに命を吹き込まれた比礼は流迦に僕の如く付き従い、幻想的な舞を見せ付ける。


・・・流迦・・・


初めて会った時の舞もこんな感じだったのだろうか・・・


燦は初めて会った時の流迦を思い出していた。あの時はどこか寂しげに見えたその舞が今は生き生きと輝き、喜びに満ち溢れている。


綺麗だ。燦は素直にそう思っていた。


流迦の髪の毛から足のつま先までも、全てが輝いて見える。

あの身体を、先程まではこの手に抱いていたのだ・・・

そう考えると、初めて会った時から今までがまるで夢の様に思えてくる。


ふと、咲良が歌いながら流迦を見つめ、軽く頷く。その咲良に流迦も答えるかの様に比礼を大きく回すと、ほんの少し頬を紅潮させた。


何だ・・・?

燦が訝しげに眉を顰めると、舞が変化して行った。先程までの躍動的な舞とは裏腹に、しっとりとした緩やかな舞に徐々に変化して行く。それに合わせて咲良の歌も変わり、しっとりと場を包んでいく。


「流迦・・・」

怒りを抑えるかの様にどこかで聞き覚えの有る声が小さく響く。

「何故・・・」

燦は小さく声の方向を見ると、流迦の兄、蒼迦が表情を強張らせ、流迦を凝視していた。

その瞳は流迦だけに注がれ、周囲は目に入らないかの様だった。


こんなに素晴らしい舞と歌なのに・・・何が気にくわないのだろう・・・。

燦は小さな蟠りを胸に抱きながらまた流迦の舞に見惚れた。

妖艶なその舞に軽やかな足の動き・・・咲良の歌が高らかに響き渡り、舞が終わりに近付いていることを感じさせた。


どんどんと高揚していく胸の高鳴りは何なんだろう・・・。

胸の奥を優しく撫でられている様なくすぐったさ。流迦を見つめているだけで胸の鼓動が大きくなっていく。


シャララ・・・・・・・

・・・・・・・・・・


静かに錫杖の鈴が響き終わると、咲良と流迦がお互いを見つめ、微笑み合った。


シン、と水を打った静けさに包まれていたその場は微笑み合った2人に対しての賛辞の言葉に大きく包まれていく。


『素晴らしかったでしょう!燦さま!』

見惚れたまま佇んでいた燦の肩にまたも青藍が嬉しそうに飛んできた。

「・・・・うん、すげぇ綺麗だった・・・」

青藍の問い掛けに燦は小さく呟くと、瞬時に赤くなった。

『そうでしょう、そうでしょう!・・・何故赤いんですか?』

「いや、あの、これは、その・・・」


見惚れて、言葉選べなかった自分が恥ずかしかったなんて言えるか・・・。


青藍はそんな燦の姿にパサパサと羽をはためかせる。


た、楽しんでる・・・絶対!


燦はほんの少しだけ青藍を睨むと、青藍に小さく呟いた。

「青藍、頼む・・・。流迦には黙っててくれ・・・・」