「・・・燦。・・・・・・・・・・・・・・燦!」

「はっ、はい、すみません!」

緋冴の呆れた声の叱責に、思わず燦は身を正した。

「ふふ・・・緋冴さまの弟君は面白いお方ですのね」

「全く・・・困ったものだ」


ふう、と緋冴はわざとらしく溜め息を着いた。が、その瞳は笑っていたので、燦は心の中でほっと一息を着く。


しかし・・・。

燦は緋冴の叱責を受けぬように静かに緋冴と談笑する宵を見つめた。

確かに見惚れる程の美しさ・・・だがどうにも硬い美しさだ、と感じていた。


光の瞬きでは無く、星の瞬きと称されるのは皆そう感じているからなのだろうか。

何と言うか・・・同じ光の姫、萌の方が美しさだけでは劣るが光の姫らしい感じがする。


いや、それより流迦の方が・・・

ふと流迦の笑顔を思い出すと、燦はぶんぶんと頭を振った。

流迦は美人だけど、どっちかって言うと可愛い方が勝つ・・・気がするな・・・。いや、でもたまにビックリするほど綺麗だし・・・。

流迦が泣いてると、抱き締めたくなったり・・・いやおい、それはダメだ!ダメ。


「あの、緋冴さま・・・弟君さまはあの、大丈夫なのですか?ご気分でも・・・?」

「捨て置け、宵。少々色惚けしておるのだ」


真横で百面相をしている弟に苦笑いを向けると、宵の心配気な表情に心配無い、と付け加えた。宵は静かに頷くと、緋冴に硬い顔を見せた。

「緋冴さま、あの・・・」

「ん?どうした?何か憂いが有るのか?」


緋冴の言葉に宵は少し言い淀んだが、やがて静かに口を開いた。

「萌の事なのでございますが・・・」

「ああ・・・」


そう言えば先程燦も聞いていたな、と緋冴は軽く頷くと、宵の言葉の先を促した。

「実は・・・」

宵の話は萌が龍迦との結婚を望んでいること、父に無理強いしたこと、そして流迦に少なからず嫉妬していることだった。


「ふむ・・・」

宵の話を一通り聞き終わると、緋冴は顎に手を置き、ゆっくりと考えを巡らした。

龍迦が萌と結婚・・・まずそれは無いだろう。龍迦もそうだが、綾迦さまが了承するとは思えない。

光王さまは・・・ま、仕方有るまい。娘に甘いのはどこの一族も同じだろう。

風姫に、嫉妬・・・。馬鹿馬鹿しいが、萌くらいの年頃ならばそうなのかもしれない・・・。

小さい芽ならば早めに嫉妬の芽を摘み取った方が萌の為だが・・・。


綾迦や龍迦、蒼迦を敵に回すことは避けた方が萌・・・光王の為だ。

・・・しかし、どうするか。

元来、女の嫉妬などは緋冴には考えも付かないのだ。

「緋冴さま、萌は生来から我慢が聞かない処があります。それが災いを成しそうで・・・」


宵が悲しげに瞳を伏せると、緋冴は優しく宵の頬を撫でた。宵の陶器のようなすべらかな白い頬が桃色に染まって行く。

「緋冴さま・・・」

頬を触れる手にそっと宵は自分の手を重ね、瞳を閉じる。


「良い子だ、宵。任せろとは言えぬが・・・出来る限りの事はしよう」

「・・・はい、緋冴さま・・・」


ゆっくりと宵は頷くと名残惜しそうに重ねていた手を離した。


「そろそろか・・・」

緋冴の言葉にその場にいた全員が宴の中央をぐるりと取り囲む。


ゆっくりと扉から歩いてくる咲良と流迦に、知らず知らずに皆が溜め息を着いている。

咲良は手に錫杖を持ち、流迦は手に透き通る比礼を持っていた。

歩く度に咲良の持つ錫杖からシャラシャラと小さな鈴の音が微かに聞こえて来る。


中央で咲良は立ち止まると、綾迦に群がる王達に軽く会釈すると、静かに錫杖を床に突き落とした。


シャラ・・・


その音が合図とばかりに流迦は静かに咲良の近くに飛び、ゆっくりと比礼をはためかせて床に降り立った。

比礼が美しい形を描いて流迦の周りを取り囲み、床に落ちていく。


場はシン・・・、と静まりかえり、2人の動向を熱い瞳で見つめている。


シャン、シャン・・・咲良が静かに錫杖を振り、流迦はちらりと燦を見た・・・様に燦は感じた。

小さく流迦が燦に笑みを送ると、流迦は大きく飛び上がり、静かに舞い始めた。


フワフワと比礼が流迦に命を吹き込まれたかの様にはためき、躍動していく。

その姿を見守っていた咲良が静かに口を開き、歌を紡いでいった。