風霊、隼。それは風の風霊では上位2位に位置し、気性は激しい事で有名な風霊。人型になるとそれは美しい女型を好む。風の刃で敵を切り刻み、綾迦以外に使役されるのを嫌い、余程のことが無ければ滅多に表に出ることはない・・・。


青藍の隼の説明を延々と聞いていた燦はぼんやりする意識を何とか呼び起こし、綾迦に向き直った。


「これは私には受け取ることすら勿体ない事でございます。どうか・・・どうかお返しする非礼をお許し下さい」


燦は綾迦に跪くと、返上の意を告げた。


風霊なんぞ、貰えるかっっ!そんなことしたら・・・顔を上げることすら恐ろしい・・・。後ろに控える兄達の冷たい視線を感じる。絶対、睨んでる・・・。


「ふむ。だが駄目だ。隼はお前が気に入ったらしい・・・」

あっさりと、燦の返上の言葉を退け、言葉を切ると、綾迦は燦の耳元に唇を寄せ、そっと囁いた。


「流迦を守る力に役立つはずだ。あの、黒い穴・・・深い亀裂を見ただろう?」


ハッと燦が顔を上げると、綾迦の瞳が燦を捉えた。


流迦の為に・・・。今の己の力量では難しい、と暗に言われているようなものか・・・。

燦の瞳が揺れるのを満足気に見つめ、静かに綾迦は頷くと、流迦に向き直った。


「さあ、流迦。気分は晴れたかな?今日はまだまだ・・・私の望まない客が来るようだが・・・、燦と共に楽しみなさい。そして緋冴、お前にはこれを・・・」


綾迦はまず皇を軽く睨み、流迦に微笑み掛け、そして緋冴に手を差し出した。

皇は綾迦から瞳を思わず逸らし、流迦は嬉しげに燦に駆け寄る。緋冴はそんな2人を見届けると綾迦に近付いた。


「綾迦さま、私は何も・・・」

緋冴が歩み寄りながら綾迦に話し掛けると、綾迦は片耳の装飾品を外し、緋冴に手渡した。


ざわめきがまた周囲にさざなみとなって拡がって行く。


「緋冴、この宝飾はきっとお前の赤い髪に似合うだろう」


そっと緋冴に手渡された小さな装飾品は三日月の形で、深い藍色の輝きを放っていた。


「両耳はやらんぞ」


悪戯っぽく綾迦は微笑むと、その片耳の装飾を緋冴の手から取ると緋冴の片耳に付ける。


「うむ。やはり似合う」

「綾迦さま・・・」

緋冴は嬉しげに頬を紅潮させながら微笑むと、くるりとその場で回って見せた。

赤い髪から少しだけ見え隠れするその耳の装飾を両手で愛しげに触れると、跪き、綾迦の服の裾に口付けた。


「緋冴、それには私の力が多少籠もっている。何れ緋冴の役に立つはずだ」

「は・・・」


「「「綾迦・・・・」」」

静かに動向を見守っていた3人の王が綾迦に声を掛けた。少なからず声が震えている。


「何だ」

「ふ、風霊は遣りすぎでは無いか・・・?」

「俺の息子だからって・・・」

「焔っ!それは関係無い!」


3人の王が口々に綾迦に話し掛け、綾迦は静かに溜め息を付いた。


頭が固くなりおって・・・。


「私が良いと言っているのだから、良いだろう」


綾迦がどっかりと玉座に座り込むと、長い足を組み、周囲を取り囲む3人の王を見回した。


「綾迦、風霊だぞ!しかも、隼とは!」

「高位過ぎる!焔には悪いが、そこまでの力は身を滅ぼすぞ」

「てめ、煌!言い過ぎだ!」


「五月蝿い!」

綾迦が怒りを含んだ声で一喝すると、3人は目を見開き、静かにお互いのせいだと言わんばかりにつつき合っている。

「龍迦、蒼迦!不満ならばお前らもここに来い。後ろから不機嫌そうに睨むな。気分が悪いわ!」


燦の後方から睨み付ける姿に綾迦は苛立ちを隠さずに呼びつけた。

母のその声に2人の兄を3人の王と共に綾迦の傍に歩み寄った。


「母上・・・」

龍迦の静かな声に綾迦は小さく頷くと、不満か?と息子達に問い掛けた。

「不満・・・では有りません。しかし、風霊を授けるほどの褒賞とも思えません」

龍迦が静かに頭を下げながら伝える声はどこか震え、傍らに佇む蒼迦も唇を固く噛み締めていた。


『隼は・・・龍迦さまや蒼迦さまには付き従わなかった風霊ですから・・・お辛いのかもしれませんね』


燦の肩の留まったままの青藍が静かに燦と流迦に告げた瞬間、扉側から小さな声が上がった。


「光の姫、宵さま、萌さま、おなりでございます」

女官の声と共に部屋に入って来たのは、今日一番の問題、萌だ。

綾迦は頭を抱え込みたくなる衝動を何とか抑え、玉座から立ち上がった。