風宮に緋冴、燦、流迦が到着しすると、青藍が慌てて出迎えに飛んできた。
パサパサと小さな羽音をさせながら、ふわりと流迦の肩に留まる。
「青藍・・・」
流迦が嬉しげに頬を寄せると、艶やかな漆黒の羽で流迦の頬を撫でる。
『流迦さま、お帰りなさいませ。全くもう!また勝手に・・・ああいけません。兄上さま達には内緒にしておきますから、ささ、お早く!お早く中へお入り下さい。ああ、緋冴さま、ありがとうございます!』
青藍は口早にまくし立てると、羽で3人を促した。
「ははっ、霊鳥どのは心配症だな。うん、では中に入ろう」
緋冴は快活に青藍に答えると、燦と流迦を連れだって風宮に入ろうと歩みを進める。
と、青藍が流迦の肩から燦の肩に飛び移った。
「え?」
『燦さま・・・感謝致します。流迦さまをお守り下さいました事。この青藍忘れません』
青藍が流迦から飛び移った事に燦が驚いていると、青藍は小声で燦に感謝を告げる。
「お前・・・あ、いや、霊鳥どの、も・・・ご存じなのですか?」
青藍の言葉に燦が聞き返すと、青藍は小さな首をコックリと動かした。
う、頷いてるんだよな・・・。燦はクッと喉を鳴らすと、青藍に倣って小声で話し掛け、歩みを静かに緋冴と流迦より遅らせた。
「あの・・・怖いお兄さま達はまだ・・・・?」
『当たり前です!龍迦さまや蒼迦さまに知れたら・・・おお怖い・・・』
青藍はわざとらしくぶるると体を震わせると、燦も大きく頷いた。
間違いない。知られたら、今度は何を言われる事やら・・・燦は前回のあの兄達の叱責を思い出し、何度も大きく頷いた。
『しかし、流迦さまをお助け下さったのもこれまた事実。きっと風矢さまからお礼の品がございますよ』
「かざやどの?」
『あ、はい、綾迦さまの事です。風王さまと風霊王さまとでは御名が違うのです。よその一族さまは王と霊王がいらっしゃいますが、風矢さまは両方兼任されておりますので・・・』
ふうん・・。そうか、火霊王さまは火王・・・父上では無いからな。風の一族ってややこしいんだな・・・
燦は理解出来ないまま、うやむやに頷くと、先を歩く流迦の姿を見詰めた。
お礼の、品・・・。そんなの、別に・・・。
『燦さま?』
「あ、いや、色々有るんだなって・・・」
『はあ・・・さ、着きました。燦さまは初めてですね。しかも今日は陽の一族さまが続々とお集まりでてんてこまいなのですよ、本当にもう!』
霊鳥が小声で愚痴を言うのに思わず吹き出す。が、その小言を反芻し、思わず表情が固まった。
・・・・陽の一族さまが続々・・・?
部屋に入ると、ザワッと波の様なざわめきが広がった。
燦の前には煌びやかな姫や凛々しい王子達が燦を見つめている。
好奇心を隠せない瞳に思わず踵を返して火の宮殿に帰りたい、と思ってしまう。
「誰?」
「あの髪・・・火王さまの・・・」
「ああ、燦さまよ・・・」
静かに煌びやかな姫たちの囁きが燦の耳に入ってくる。
「燦・・・?」
「へえ、あれが」
硬い冷たさに満ちた王子の声が燦の胸に突き刺さる。
公の場に出ることがほとんど無いのは、こういう雰囲気が嫌いだからだ。幼い頃の精霊の里には全く無いこの雰囲気。肩に留まる青藍も心配気に燦の動向を見守っている。その瞳に背中を押される様に、燦は静かに歩みを進めた。
好奇心と値踏みの雰囲気が周りを取り囲む。燦が進むたびに人垣が割れ、道が出来た。
道が出来た先には流迦と緋冴が見える。微笑みながら燦を待つ2人に心の中で安心しながら、前へと進む。
そこには、前回会った時と同じ妖艶さを携え、風王綾迦が燦を迎えるべく、佇んでいた。