緋冴は項垂れる燦に優しい瞳を向けた。
「燦、そう落ち込むな。詳しい事までは私には解らぬが・・・そこまで気に病む事は無い」
「しかし・・・姉上・・・」
燦は苦しげに声をだすと、首を振った。
「やはり、許されることでは有りません・・・彼らにとっては神聖な場所なんでしょうから・・・」
燦の言葉に緋冴はゆっくりと頷いた。
燦とて愛する母を失っている。同調してしまう気持ちも解らなくは無い。
「だから、礼儀は尽くせ、と言ったのだ。してしまったことは仕方ないだろう?今更悔やんでも時は戻らぬよ」
はい、と小さく燦は呟くと、緋冴を見つめ、頷いた。
「さて、風姫。・・・初めての対面がこんな時で済まなかったね。それに燦が迷惑を掛けてすまない」
緋冴が流迦を優しく見つめ話し掛けると、流迦はかぶりを振った。
「いえ、そんな・・・緋冴さま、本当にありがとうございました・・・。それに・・・燦さまにご迷惑を掛けているのはいつも私なのです・・・」
長い睫毛を伏せ、流迦は震える声で緋冴に答える。
「ははっ。こんなに可愛らしい姫ならば迷惑を掛けられても本望だろう?なあ、燦」
「いや、あの、あ、姉上っっっ!」
緋冴は笑い声を上げ、慌てる燦に笑顔を向けた。
「ひ、緋冴さま・・・」
流迦も頬を紅潮させ、両手を頬に当てる。
そんな2人の初々しさに、緋冴は清々しい気持ちを感じていた。
実際この目で見るまでは想像でしか無かったが、この少女は強い。と感じる。
風の力がこの儚げな身体の中に渦巻いているかの様だ。
しかし、そんな力の欠片すら気の中に出てはいない。まるで意図的に隠して有るかの様に。
ふむ・・・と緋冴はしばし考えを逡巡させると、燦に声を掛けた。
「さあ、帰ろう。綾迦さまがお待ちかねだ」
「はい」
燦は赤い頬をそのままに緋冴に続き風宮へと火竜を走らせた。
と、燦は流迦の身体が震えている。
「流迦?どうした?」
燦は流迦の耳元に唇を寄せ、緋冴に聞こえない様に注意しながら声を掛けた。
またからかわれたら堪らないからな。
「燦さま・・・いえ、あの・・・。先程の黒い穴を思い出して・・・」
「ああ、あれか・・・」
「あれは何だったのでしょうか・・・」
実際、燦にもあの黒い穴の正体は解らない。
「風宮に帰ったら、父上に聞いてみよう、な。だからそんなに怯えるな。それに・・・。また、俺がいつでも助けてやるから・・・」
頬を染めながら流迦に優しく告げる燦の言葉に流迦は嬉しそうに頷くと、火竜の背を優しく撫でた。