風宮が眼下に迫ってくると、前を行く緋冴の火竜が速度を落とした。
姉の意向が理解出来ると、燦も姉に合わせ、火竜を手繰り、姉の横に平行し、並ぶ。
緋冴は静かに頷くと、口を開いた。
「さて、燦」
「はい・・・姉上・・・。申し訳有りません。お手を煩わせてしまいました」
燦は素直に謝罪を述べ、頭を下げた。流迦も静かにそれに倣い、頭を下げた。
「うむ。ま・・・仕方有るまい。綾迦さまにも頼まれた事だ。それに、そんな野暮でもないつもりだ」
悪戯っぽく緋冴は軽口を叩き、静かに微笑むと、燦と流迦はしばらくきょとん、としてから頬を紅潮させた。
「しかし・・・。今度また水の王子に会う機会が有れば礼儀は尽くせよ。あの場所はそこらの神域では無いのだ」
「は・・・」
燦は緋冴の言葉に静かに頷く。
「しかし、助かった。あのまま水王の所まで行かれたら、私でもどうしようもない」
緋冴は両手をあげ、首を振って見せる。
「はい・・・では何故連れて行かれなかったのでしょう・・・」
流迦が思わず口にすると、慌てて手で口を隠した。
「構わないよ、風姫。自由に発言なさい。2人に話しているのだからね」
緋冴が流迦に優しく言葉を促し、流迦が頷くのを確認すると、また言葉を続けた。
「あそこはね、・・・水姫が自刃した処なのだ」
自刃!?
燦と流迦が驚きの顔を緋冴に向ける。
「彼らの・・・多分姉にあたるのだろうね。理由は・・・いや、真実は私にも解らぬから、有り体の事は言わぬ方が良いだろう」
「しかし、王族が、自刃とは・・・」
「そうだね、燦・・・しかし、水姫が亡くなった後、あの神域が出来たのだ。水姫の屍・・・それが見る見る内に神域に変わったそうだよ」
「それでは・・・自刃されたのに罪にはならなかった、と言うことなのですか?」
7つの一族の寿命は限りなく長い。天命を全うし亡くなったものはまた生まれ変わる。
だが、悪意で他者の命を奪った者や、自身で命を絶った者には生まれ変わる事も出来ず、未来永劫、下界のそのまた下・・・冥界や幽界まで行かなければならない。
しかし、屍が神域となるのは極めて稀な事だ。それほどまでに水姫の魂は清浄だったのか・・・。
「そうなるね。しかも神域とまでなるほどだ。水姫は生まれ変わりたくも無いのかもな」
「姉上、転生したくないと、神域に変わるのですか?」
「ま、そう言う事も過去に有るらしい・・・が。詳しくは解らぬな・・・」
王達では無いと、真相は解らぬだろう、と緋冴は続け、自分の顎に手を置くとしばし考え込んだ。
「では、彼らは・・・」
「うん?ああ、墓参りだったのかもな。だが、自刃した姫の神域は王族であれ立ち入ることは許されない」
流迦はハッと顔を上げ、青ざめた。
「例え神域となるまでの清浄な魂でも、自刃は罪だからね・・・。仕方が無い措置だ」
「彼らも・・・では、彼らは・・・密かに・・・」
「だから、助かった」
緋冴の言葉に燦は頷き、何とも形容しがたい感情を感じた。
彼らの心情はいかばかりだったか。姉の墓所に無断で立ち入り、あろう事か自分は父の威光で許されようとさえした。彼らの怒りがまた燦の心に染みいって行くようだった。