涼の言葉に思わず天を仰ぐと、そこには、燦の火竜よりも一回り小さい火竜が空中に漂っていた。
火竜を巧みに操り、静かにこちらを見下ろしている。
「あ、姉上・・・」
思わず燦は声を上げた。隣で流迦がそんな燦を驚いた顔で見つめている。
事実、燦は動揺を隠しきれないでいた。風宮で別れたはずの姉が何故ここにいるのか皆目見当も付かない。
「仕方無いなぁ・・・」
涼が相変わらずの口調で静かに両手を合わせた。
バチッ、と小さな音が周囲に木霊し、すうっと空気が変わって行く。
「結界・・・・」
流迦が小さく呟き、涼が流迦の言葉に頷く。
「一応結界、張って合ったんだけど・・・ね」
涼の言葉が終わるか終わらないかの処で、頭上に漂っていた、火竜がゆっくりと流迦達の傍らに降り立った。
「涼ッ!」
鴻が苦々しい顔で相対する飄々とした同じ顔を睨み付けた。結界を解いてまたも侵入者を、と言った処だろう。
ゆっくりと火竜からすべり降り、こちらに近付いてくるその人は、「姫」とは思えない軽装で涼や鴻と対峙した。
「水の王子どの達ですね?初めまして。私は火の一族、焔が一子、緋冴と申します」
凛とした涼やかな口上を述べ、涼と鴻に笑顔を向ける。
「姫・・・・?どこがだ・・・」
「ああ、私は軽装が好きなのです。動きやすいのでね、つい好んでしまうのです」
鴻が不機嫌な顔を明らかに見せているのに、緋冴は意にも介さず、鴻の言葉を遮った。
「弟がお世話になったようで」
「世話?巫山戯るな!お前の弟が神域に踏み入ったのだ!相応の罰を覚悟しろよ」
鴻の言葉が怒気をはらみ、流迦は身体をびくりと震わせ、思わず緋冴を見た。
しかし、相も変わらず、彼女の表情は変わらない。緋冴の事は兄から聞いて知っていたが、会うのはこれが初めてだ。兄達の友人でも有るが、母のお気に入りの姫でも有るらしい。いつか、お会いできれば、とは思っていたがまさかこんな時に・・・。
緋冴さままで罰を受けることになったしまったら・・・。
「神域?ああ、成る程・・・だから燦の気は感じても、姿は見つけられなかった訳ですね」
「結界だからな」
緋冴は赤い瞳を軽く閉じると、息を吸い込み、吐き出した。
「結界を破ったのですか?」
「いや、すり抜けたんだ」
緋冴の言葉に涼が答えた。その答えを聞くと緋冴は微かに微笑む。
「ほう、それはそれは・・・」
緋冴から思わず感嘆の言葉が出た。結界をすり抜けるなど、相当の「気」が無ければ出来る芸当では無い。
そんな力・・・。綾迦さまに匹敵する。ゾクゾクするほどの高揚感も感じながら緋冴は涼と鴻に視線を戻し、言葉を続けた。
「水の王子どの。どうかお許し願えませんか?燦達には良く言って聞かせます」
「何を・・・!」
「鴻。よせ。仮にも相手は火の姫なのだぞ」
緋冴の言葉に激昂する鴻を涼は諫め、緋冴を見つめた。
「しかし、火の姫。仮にもここは水の一族の治める地。しかも少し特殊な神域なんで・・・はいそうですか、と言うわけにはいかない」
「確かに。私の頭一つ下げるだけではすみませんか?」
「残念ながら・・・」
涼の言葉に緋冴は頷くと、溜め息と共に告げた。
「では腕尽くでも?」
「やる気か、お前・・・・」
緋冴の言葉に鴻が表情を変え、緋冴を睨み付けた。