「罰を受けるって言ってもね。此処、神域だから血は流せないし・・・」


白銀の髪を揺らし、涼が冷ややかに流迦に告げた。


「それに此処がどこの神域か解ってるのか?」


黒曜石の瞳を凍てつかせながら鴻が涼に連なるように流迦に浴びせた。


「ここは水の王族、水王が治める神域の一つだ」




水の王族!燦は思わず歓喜の声を上げそうになった。

水王、劉ならば親父とは旧知の仲のはずだ。焔と旧知の仲となれば、風王綾迦も知っているはずだ。


燦は流迦を抱いている手をゆっくりと離し、その場に足を折った。


「水の皇子どの、此度の振る舞い、どうかお許し下さい。私は火王が息子、燦。彼女は風王が姫、流迦と申します」


燦がゆっくりと口上を述べるのを聞いて慌てて流迦も膝を付いた。



「ああ、王族だったんだ」


涼が興味なさげに呟く。だから何?とでも言葉が続きそうな勢いだ。


「王族だから許されるって思ってるのか?」


「そんな事は・・・!」


慌てて燦が顔を上げ、否定する。


「お前、俺たちが水王の息子だって解ってからそんな態度に出たわけだろう?それ自体が見え透いてるな」


鴻が燦を嘲るかの如く、言葉を続けた。


「つまりは親の威光を借りて許して貰おうって腹か?」


火の王子も落ちたものだな-そう言い捨てると、流迦に冷たい視線を向けた。

黒曜石の瞳に冷たい視線を投げかけられ、流迦は思わず瞳を逸らしたくなる衝動に駆られた。


しかし、ここで怯む訳には行かない。自分の我が儘で燦までが罰を受けることは避けなければならない。

流迦は震えそうな身体に力を込め、黒曜石の瞳を真正面から受け止めた。


「燦さまはそんな卑怯な方ではありません!ここに参ったのも私の我が儘なのです。燦さまには何の落ち度も無いのです」


「王子さまが馬鹿にされるのが我慢ならないのか?」


クッと、唇の端を上げ鴻が皮肉めいた笑みを漏らす。横に佇む涼はやれやれと言った風だ。


「確かにな、見るからに甘やかされたお姫さんだな。王族に生まれたにもかかわらず神域に入り、尚且つ許せ、と来たか」


ぐっと流迦が押し黙る。


「説教されたことすら無いのか?ちょっと言われたらすぐ黙る。次は泣くのか?泣いた後はどうする?」


鴻は押し黙る流迦に向かって辛辣な言葉を吐き、燦に向き直った。


「我が儘なお姫さんはちゃんと面倒を見ろ」


燦は拳を地面に付けながらじっと耐え続けていた。確かに水王の息子だと聞いて何とかなる、と思ってしまっていたのだ。その安易な考えを見透かされ、己を恥じ入った。だが、流迦に関しては別だ。彼女は何も疚しい考えなど、全く持たずに素直に謝罪している。


そこまで言われなくてはならないことなのか?


拳をきつく握りしめながら燦は怒りが噴き上がってくるのを感じていた。


「もう良いだろ、鴻・・・言い過ぎだよ」


涼が鴻を窘め、肩を叩く。


「だいたい、彼女は風・・・・。だからこそ結界を抜けれた訳だし・・・」


それにさ・・・涼が溜め息を付きながら言葉を繋いだ。そして天を仰ぐ。


「お迎えも来てるみたいだし」