流迦は燦の背に隠れながら目の前に佇む白銀の髪の主を見つめ続けていた。
誰なの・・・?
正装はしていないものの、高貴なベールが白銀の彼を包んでいるかの様に感じられる。
燦が名乗ったと言うのに、相手は名乗る気配すらない。
しかし、この相手は名乗る必要すら無いようにも感じられた。
彼を纏う雰囲気そのものが敢えて名乗らずとも高貴な出だと頭で理解してしまう。
何かを考えているのか、考えていないのか・・・それすらも表情に出ない。
ふと、彼がこちらを見、ほんの少しだけ首を傾げた。
「ああ、ダメだよ、鴻。迷い込んだだけだと・・・思うから」
淡々と話す意味がすぐには理解出来ず、流迦が首を傾げると、燦が身を反転させ、流迦を片手で抱き抱えた。
急に身体が浮き視界がぐるりと回る。
慌てて視線を正面に見据えると、そこに、背後にいるはずの銀髪の彼と全く同じ顔をした青年が矢をつがえ、燦の胸を狙っている。ただ、違うのは髪が白銀ではなく、漆黒だ。
「きゃ・・・」
思わず流迦が声を上げた。否、燦を狙っているわけではないのかもしれない。
このまま行けば間違いなく火竜に命中する。
「や、やめて・・火竜は、この子は関係無いわ・・・」
消え入りそうな声で流迦が嘆願する。
「鴻・・・止めろって言ってるだろ・・・」
気だるげにまたも銀髪の彼が告げると、「鴻」と呼ばれた青年がゆっくりと矢を下ろした。
そしてそのまま大きく飛び上がり、銀髪の青年の横に並んだ。
流迦と燦の視線は青年が飛ぶのと同時にまた銀髪の青年へと移る。
「鴻、彼は火の一族、燦、だそうだ。その後ろの女は風の一族らしい」
相も変わらずの調子で銀髪の青年が漆黒の青年に告げると、さも胡散くさげに漆黒の青年が流迦と燦を睨み付けた。
「だから何だ。ここは神域だ。涼、見逃す気か?」
「見逃す?そんなつもりは毛頭無いよ」
思わず燦の流迦を抱きしめる手に力がこもる。
いざとなれば、流迦だけでも逃がさなければならない。
しかし、正面の2人の青年の優雅さといい、高貴さといい・・・。
王族に間違いは無い。全く外見は同じだ。違うのはただ、髪の色と瞳の色・・・白銀にブルーの瞳、漆黒の髪に黒曜石の瞳・・・しかし、燦や流迦の記憶に無い、と言うことは、陰の一族だろう。白銀の髪の主は「涼」、漆黒の髪の主は「鴻」とお互い呼び合ってはいるが、やはり燦には記憶をたぐり寄せても思い当たる名前では無い。
今更ながら、もっと王族の事を親父に聞いておけば良かった、等と考えてしまう。
しかし、今更、なのだ。
意を決して燦は口を開いた。
「神域を汚した事は謝る。すまなかった。罰は受ける。だが、彼女は許して貰えないか?」
ハッと流迦が燦の顔を見た。
「いけません、燦さま。ここに降りたいと我が儘を言い出したのは私です」
流迦はハッキリと燦に告げ、抱き抱えられたままの不自由な身体を捩り、2人の青年を見つめた。
「罰は私が受けます」