少女は暗い地下道へ向かって歩き続けていた。


歩く度にコツ…コツ…と岩盤に響く。


地下深くには光が差すことも無く、無体に拐われた光精が岩盤に囚われ、静かに泣きながら儚げな光を灯していた。

光精は太股と腕が岩盤に飲み込まれ、埋まっている。

チロリ、と見ると話すら出来ぬ様に唇まで閉ざしてある。ただ視線が助けを求める様、さ迷っているだけだ。



悪趣味ね。



吐き気がするのをどうにか堪えながら、歩き続けた。

足音の他にはたまに地下水脈から溢れてくるのか、微かな水滴の音だけだ。



しかし目的地に近付くにつれ、嗚咽が聴こえ始めた。

地上からそれほど離れてはいなくても…この部屋に住まう住人には耐え難い屈辱に違いない。


地下道には別れ道など無く、ただ真っ直ぐにその場所が有った。

少女の真正面に大きな扉が聳え立ち、少女は歩みを止めた。


不意に、水滴が頬に掛かる。


地下をくりぬいて作られたこの部屋は、本来なら一体誰の為の部屋だったのだろう。


一体何を考えていた事やら…


頑強な扉の前で、手を差し出し、何かを呟く。



キラッと弾ける様に手が光り、重厚な扉が音を立ててゆっくりと開き始めた。



中からはやはり嗚咽が聴こえてくる。扉がだいぶ音を吸収していたのか、凄まじく大きい声だ。



「相変わらずですね」


少女が意にも介さず、中の住人に告げながら、部屋へ入る。


大きな寝台の上に女が1人。うつ伏せになりながら何かを叫んでいた。


少女が入って来たのに気付くと、少女の腰にすがり付く。



「来てくれたのだね」


「泣いても喚いてもどうしようも無いでしょう」


「お前、お前が何とかしてくれるだろう?」


またか。ふぅっと溜め息を付くと、いつもの言葉を囁く。


「気が進みませんけどね」

「駄目だっ!!お前が!!お前が!!」


高く、激しい声で女が怒鳴った。


毎度訪れる度に、彼女は同じ言葉を吐く。


腰にまとわりつく女を無理に振り払うと、女は床に倒れ込んだ。そのまま、同じ言葉を呟き続ける。


部屋の中は柔らかい絨毯を敷き詰めてある。怪我をすることも無い。


馬鹿馬鹿しい。
他に言う言葉は無いのかしら。


慣れているとは言え、見ていて気持ちが良いものでも無い。


不意に彼女が立ち上がって少女を見た。


「お前しか…殺せない」


そう告げる彼女の顔…右半分は焼け爛れていた。

傷痕から遥か昔の傷である事は解る。
もう痛みも無いだろう。

凄惨な傷痕を隠す事も無く、彼女は少女にまたすがり付いた。




「殺して…あの女の娘…」



「綾迦の娘を殺して!!」