身体が重い…。
ギシリ、と音を立て寝台から起き上がると、流迦はそのまま浴場に向かった。
沸き上がる湯に身体を浸け、湯の上に散らばる花びらを無造作に指で弄んだ。
ここ最近、ひたすら舞っていた為か、身体が軋んで所々が悲鳴を上げていた。
燦との事が有ってから、心の中に靄が掛かったままだ。
こんな事じゃ、いけない…。花精達を送り出せないわ。
舞っている間もそればかりで、気持ちが入らない。
懸命になればなる程、虚しくなって行くばかりだ。無駄な動きが多いから、身体中も痛くなってしまう。
華祭は近いのに…。どうしたら良いのかしら…。
じんわりと流迦の瞳に涙が浮かんでくる。そんな自分が不甲斐なく感じられ、ぶんぶんと頭を振り、流迦は頭から勢いよく湯の中に浸かった。
*
湯あみを終えた流迦を待ち構えた様に、青藍が飛んで来た。
数日前に久しぶりに風霊の里から帰って来た母の霊鳥の帰還は靄が掛かった流迦には心強く感じられた。
小さい時からの私の理解者…流迦は素直に嬉しく、数日前からはずっと一緒に過ごした。
『流迦さまー!!お客様ですよっっ!!』
パサパサと羽音をたて、青藍が流迦の頭上で旋回する。
「あら、誰かしら?」
笑顔で青藍に片手を上げると、青藍は流迦の右手の人差し指に留まった。
『それがですねっっっ、火王さまと、そのご子息さまでございますですよっ!!』
嬉々として流迦に告げる青藍に流迦は思わず絶句した。
ご子息さまって……燦さま…??
一瞬、胸がトクリと鳴った気がしたが、気付かれぬ様に青藍に微笑む。
「じゃあ、父王さまにご挨拶に伺わなければならないわね」
『そうですね、何て言ってもあの焔さまは流迦さまにぞっこんでございますからねっ』
「父王さまはあまりお会いする事が無いから…仕方無いわ」
『まあ、本日はご子息さまもご一緒ですし、早々にお帰りかもしれませんしねっ』
羽を拡げ、身振りで懸命に告げる青藍の背中をそっと左指で撫でると、父王が待っているであろう、客間へ向かった。
客間には既に綾迦や、龍迦、蒼迦が揃っていた。
「お母さま、お兄さま」
声を掛けるといつもの様に皆を抱き締める。
「父王さまが来られておりますの?」
「ああ、今、外に着いたらしい。全く…騒々しいヤツだ」
綾迦は気だるげに入り口を見る。
入り口の向こうからもガヤガヤとしたざわめきが響いて来る。
ご一緒かしら…。
また軽く胸が痛む。
ドカッ、と音がすると、重い筈の扉が開き、
「流----迦----!!」
両手を拡げ火王、焔が流迦に抱き付いた。
『っっっ!!』
潰されそうになった青藍が間一髪飛び立ち、流迦は声をたて、笑いだした。
「父王さま…お久しぶりです」
「うん、相変わらず美人だ。綾迦に似て」
すりすりと頬を流迦の頬に擦りよせ、流迦の顔を凝視する。
「相変わらずだの、焔。止めてやれ」
綾迦が呆れた声で告げると、全員笑い声を上げた。
「そうです、父上、離れなさい。風姫さまがお困りですよ」
凛としながらも笑いを含んだ声が父王の後ろから響いた。
父王の肩に阻まれて見えないでいるが、どこかで聞き覚えがある声だ。
「久しいな、烟」
龍迦が親しげに声を掛けている。
やっと父王の親愛の抱擁から解放されると、息を着き、声の主を鑑みた。
「烟はうるさい…たまには俺だって流迦を抱き締めたい」
ボソリと流迦だけに呟き、
「流迦、覚えいるか?俺の息子、烟だ。まあ、会ったのはだいぶ前だが…」
と烟に手を伸ばし、名を告げた。
火のような長い赤い髪を編み、前に垂らしている。凛々しい顔付きは自信に満ち溢れ、赤い瞳で流迦を見詰めていた。
花精達がここにいたら、また歓喜の声を上げそうね…
がっちりとした体躯はしなやかな筋肉で包まれ、その身体には無駄な所が無い。
「烟さま。ごめんなさい、私…あまり憶えてなくて」
と素直に頭を下げ、謝罪する。
事実、あまり記憶に無いから仕方無い。お兄さま達はご存知の様だけど、どうしようも無いわ…。
「良いんですよ。幼い頃だったんですから。お美しくなられましたね」
「そんな…」
「烟、あまり流迦をからかうな。困ってまた話してくれなくなるぞ」
龍迦が咎める様に烟に話掛ける。
「からかって等いない。本当に、美しい…」
瞳を細め、流迦から目を離す事無く、烟は答えた。
「そうだろ、そうだろ、やっぱり流迦は美人だろっ」
嬉しそうに烟の肩を抱き、バシバシと叩きながら焔が大笑いする。
「取り敢えず、皆座れ。酒宴にしよう」
綾迦がまたも呆れた様に青藍に目を向けると、見計らった様に神酒が運ばれて来た。
流迦も促されながら席に着いた。
燦が一緒で無くてほっとした様な、寂しい様な…また靄が掛かった様に胸が重くなる。
烟は赤い瞳、赤い髪だけど…燦は紅だった…綺麗な真紅の瞳…。ハッと目が覚める様な…。
ぼんやりと燦を想いだしながら、流迦はただ、座り続けていた。
ギシリ、と音を立て寝台から起き上がると、流迦はそのまま浴場に向かった。
沸き上がる湯に身体を浸け、湯の上に散らばる花びらを無造作に指で弄んだ。
ここ最近、ひたすら舞っていた為か、身体が軋んで所々が悲鳴を上げていた。
燦との事が有ってから、心の中に靄が掛かったままだ。
こんな事じゃ、いけない…。花精達を送り出せないわ。
舞っている間もそればかりで、気持ちが入らない。
懸命になればなる程、虚しくなって行くばかりだ。無駄な動きが多いから、身体中も痛くなってしまう。
華祭は近いのに…。どうしたら良いのかしら…。
じんわりと流迦の瞳に涙が浮かんでくる。そんな自分が不甲斐なく感じられ、ぶんぶんと頭を振り、流迦は頭から勢いよく湯の中に浸かった。
*
湯あみを終えた流迦を待ち構えた様に、青藍が飛んで来た。
数日前に久しぶりに風霊の里から帰って来た母の霊鳥の帰還は靄が掛かった流迦には心強く感じられた。
小さい時からの私の理解者…流迦は素直に嬉しく、数日前からはずっと一緒に過ごした。
『流迦さまー!!お客様ですよっっ!!』
パサパサと羽音をたて、青藍が流迦の頭上で旋回する。
「あら、誰かしら?」
笑顔で青藍に片手を上げると、青藍は流迦の右手の人差し指に留まった。
『それがですねっっっ、火王さまと、そのご子息さまでございますですよっ!!』
嬉々として流迦に告げる青藍に流迦は思わず絶句した。
ご子息さまって……燦さま…??
一瞬、胸がトクリと鳴った気がしたが、気付かれぬ様に青藍に微笑む。
「じゃあ、父王さまにご挨拶に伺わなければならないわね」
『そうですね、何て言ってもあの焔さまは流迦さまにぞっこんでございますからねっ』
「父王さまはあまりお会いする事が無いから…仕方無いわ」
『まあ、本日はご子息さまもご一緒ですし、早々にお帰りかもしれませんしねっ』
羽を拡げ、身振りで懸命に告げる青藍の背中をそっと左指で撫でると、父王が待っているであろう、客間へ向かった。
客間には既に綾迦や、龍迦、蒼迦が揃っていた。
「お母さま、お兄さま」
声を掛けるといつもの様に皆を抱き締める。
「父王さまが来られておりますの?」
「ああ、今、外に着いたらしい。全く…騒々しいヤツだ」
綾迦は気だるげに入り口を見る。
入り口の向こうからもガヤガヤとしたざわめきが響いて来る。
ご一緒かしら…。
また軽く胸が痛む。
ドカッ、と音がすると、重い筈の扉が開き、
「流----迦----!!」
両手を拡げ火王、焔が流迦に抱き付いた。
『っっっ!!』
潰されそうになった青藍が間一髪飛び立ち、流迦は声をたて、笑いだした。
「父王さま…お久しぶりです」
「うん、相変わらず美人だ。綾迦に似て」
すりすりと頬を流迦の頬に擦りよせ、流迦の顔を凝視する。
「相変わらずだの、焔。止めてやれ」
綾迦が呆れた声で告げると、全員笑い声を上げた。
「そうです、父上、離れなさい。風姫さまがお困りですよ」
凛としながらも笑いを含んだ声が父王の後ろから響いた。
父王の肩に阻まれて見えないでいるが、どこかで聞き覚えがある声だ。
「久しいな、烟」
龍迦が親しげに声を掛けている。
やっと父王の親愛の抱擁から解放されると、息を着き、声の主を鑑みた。
「烟はうるさい…たまには俺だって流迦を抱き締めたい」
ボソリと流迦だけに呟き、
「流迦、覚えいるか?俺の息子、烟だ。まあ、会ったのはだいぶ前だが…」
と烟に手を伸ばし、名を告げた。
火のような長い赤い髪を編み、前に垂らしている。凛々しい顔付きは自信に満ち溢れ、赤い瞳で流迦を見詰めていた。
花精達がここにいたら、また歓喜の声を上げそうね…
がっちりとした体躯はしなやかな筋肉で包まれ、その身体には無駄な所が無い。
「烟さま。ごめんなさい、私…あまり憶えてなくて」
と素直に頭を下げ、謝罪する。
事実、あまり記憶に無いから仕方無い。お兄さま達はご存知の様だけど、どうしようも無いわ…。
「良いんですよ。幼い頃だったんですから。お美しくなられましたね」
「そんな…」
「烟、あまり流迦をからかうな。困ってまた話してくれなくなるぞ」
龍迦が咎める様に烟に話掛ける。
「からかって等いない。本当に、美しい…」
瞳を細め、流迦から目を離す事無く、烟は答えた。
「そうだろ、そうだろ、やっぱり流迦は美人だろっ」
嬉しそうに烟の肩を抱き、バシバシと叩きながら焔が大笑いする。
「取り敢えず、皆座れ。酒宴にしよう」
綾迦がまたも呆れた様に青藍に目を向けると、見計らった様に神酒が運ばれて来た。
流迦も促されながら席に着いた。
燦が一緒で無くてほっとした様な、寂しい様な…また靄が掛かった様に胸が重くなる。
烟は赤い瞳、赤い髪だけど…燦は紅だった…綺麗な真紅の瞳…。ハッと目が覚める様な…。
ぼんやりと燦を想いだしながら、流迦はただ、座り続けていた。