綾迦が風の宮殿に帰ったのは夜も更けた頃だった。


あの後、またも飲み直し、寝てしまった3人の王を見棄て、宮殿に翔んで帰ったのだ。

『風矢さまっ』

バサリと綾迦の倍以上の大きな黒い鳥が綾迦に声を掛け、後ろに降り立った。

「おう、青藍。戻ったか」
にこやかに大きな黒い鳥に応える。

『はい、もうじき華祭…風霊の里も盛り上がって参りましたよっ』

「…そうか。皆、変わり無かったか?」

『はいっ。それはもう…一族皆様お元気でございましたっ』

風の一族は王以外は皆精霊の里へ移り住む。綾迦が王となった時も例外では無かった。

「私もたまには行きたいのだか…」
チロリと大きい鳥を見ると、「お前がうるさくてかなわん」
と口を尖らせた。


『当たり前です。風霊の里へ風矢さまが行かれたら…』

「うるさい。別に…個人ではなく、皆に会いたいだけだ」

どうだか、と言わんばかりに鳥は羽を拡げた。

青藍には敵わない。遥か古から綾迦に仕えてくれているのだ。綾迦以上に綾迦を知っている。

だからこそ、風王の名前―風矢、と呼ぶのを許しているのも近くでは青藍だけなのだ。


「とりあえず、だな、青藍。その無駄にデカイ図体を何とかしろ、話にくいのだ…」

綾迦は溜め息を隠す事無く吐き出した。


『なっ!!この方が翔んで帰るのには楽なのですよっ』
ブツブツと不満気に呟きながら、青藍は小さくなって行く。

鴉くらいの大きさになると、パサッと羽を拡げ、綾迦の肩に飛び乗った。


「さあ、では聞こう。陰の一族はやはり風の一族を狙っているのか?」




*




兄の胸で優しい鼓動に包まれながら眠りに着いた流迦は、兄がそっと寝台に横たえてくれた所で目が覚めた。


「…おに、いさま…?」


ピタリと動きが止まり、蒼迦が優しげに微笑んだ。

薄明かりに照らされる兄の姿は何よりも美しい。


「すまない、起こしたね」
ニコリ、と笑う蒼迦に微笑みを返し、首を振る。

「ありがとう、お兄さま…」


掠れた声で兄に呟くと、流迦はすぐに瞳を閉じ、安らかな寝息を立てた。


長い髪を優しく手で撫でる。
寝てる姿は何物にも代えられない程、愛らしい。


蒼迦は微笑みながら部屋を出た。

自室に向かっていると、くぐもった話声が聴こえて来た。



母ならば挨拶をするべきだ、と蒼迦は話声の聴こえる部屋へ入った。


「母上?ご帰宅ですか?」
「…!!蒼迦か?」

驚いた様に、振り返ったのは、母と兄、そしてしばらく姿を見ていなかった母の霊鳥…青藍だった。



「母上…兄上…青藍まで…」

久しぶりの霊鳥との再会に、笑顔で近付く。


『蒼迦、さま…』

少し躊躇いがちに青藍が顔を上げる。

「聞いていたのか?」

綾迦が厳しい声で蒼迦に問い掛けた。

「い、いえ…何も」

思いがけない、母の厳しい声にしどろもどろで応える。


「母上がお帰りなら、ご挨拶をと…」


綾迦は少しだけ眉をひそめると、射る様に蒼迦を見つめていたが、その言葉に嘘が無いと解ったのか、表情を緩めた。


「そうか、わざわざすまぬな。今日は疲れただろう。ゆっくり休めよ」

「は、はい」

蒼迦は暗に退室を命じられ、素直に従った。

心に疑問を感じてはいた……だが、今は問う時では無い、とも理解出来ていた。