思わず、彼女から離れてしまった。

「私の記憶だからな。私が見ている光景が見えただろ」
「…」
そして私の頭を撫でる。
「お前は本当は違う用事でこの下界に降りた。」

彼女はセイに目をやるとセイは飛び立ち、程なく彼女のカバンを持って帰って来た。手を伸ばし、カバンを受け取ると、中からタバコを取りだし、火を着けた。

「うまいな、下界のタバコは。」
辺りはいつしか夜の闇に包まれ、彼女の吐き出した紫煙が夜の闇に溶けた。


「信じがたいけど、本当の事なんですね…」
『流迦さま…』

横でセイ…青藍が項垂れる様に頭を垂れた。

「お前は跳ねっ返りだからな。下界に降りる時、下界の人間と繋がりたいと言い出した。」

相変わらずタバコを加えながら、彼女は言葉を続ける。

「兄弟は皆反対した。もちろん私もだ。だがお前は実行した。下界を調べ、問題ないと判断した場所、家族…記憶を改ざんする術と、人化の術を行った訳だ。誰にも言わずにな。」

-改ざん…


「その術が未完成だった訳だな。とどのつまり。だからお前の思う様な下界の暮らしでは無かったハズだ。しかもお前は術の失敗で中途半端な人間になり、自分自身の記憶すら無くした。」

-パパとママの事?

「昨日私と会った時、私の力に当てられて、お前の力が少し戻ったのだろう。お前の術が少し正常になったのだろう。しかもこんな突拍子も無い話を信じられる様にもなってる。記憶は無くとも、心で解っているのだろ。流迦、今日は良い1日だったか?」
タバコを消しながら、しかもキチンと携帯灰皿に入れながら、ニコリと笑う。

-以外とマナー有るんだ…等と思いつつ、
昨日と今日のパパとママの態度の違いは…今日が私の望んだ、創りたかった生活…創られた、創った生活、だったんだ…


「だから言ったのだ。普通に降りて目的を果たせば…昨日までの様な暗い顔も、考えもして無かっただろう」

『風矢さま、流迦さまはまだ記憶は…』

青藍が彼女の話を遮る。


「うーん…今のままでは戻らないだろうなあ…」

-え、戻らないの?
私は少し拍子抜けした。この信じがたい状況に、彼女が何とかしてくれるのでは無いか、と思っていたからだ。
と言うことはこのままここで生活出来るって事だよね…。でも、私の創った世界…記憶無くなる前はどんな私だったのかな…

「まぁ、何とかなるだろ」『風矢さまっ!!』
青藍が声を荒げた。
『何を悠長な…流迦さまは見付かりましたが、兄上さま達は見付かっても無いんですよっ。だいたい他の王さま達にせっつかれて皆様の様子を見に来たハズなのに、「タダ酒に釣られて」水商売等と…!!早くお探しする様に何度も進言しましたのに、この間の流迦さまの助けを呼ぶ声が無ければ…しかも流迦さまと解って居ても何も言わずに!!この青藍にまでも口封じの術まで掛けて!!ああ、流迦さま…おいたわしい…』


「流迦が選んだ道だ。このまま人間として暮らすのも悪く無いのでは無いのかと思っただけだ。だが、昨日の今日で私に会いに来たのでな。そうなるとそれは偶然では無い。伝えるべきだと考えたから言っただけだ。」

-私、ちょっとこの状況に慣れて来たのかしら…。彼女と鳥とのやり取りが少し可笑しかった。
少し懐かしい様な、楽しい様な気も…しないでも無い、かな?

「まあ、まだ兄達も居ることだ。別に流迦じゃ無くても良いだろう。それにタダ酒だけでは無いぞ?ちゃんと下界の風の眷属の助けもしておるだろうが。」


-兄って…。さっき映像で見た人達だろうか。


「流迦。まあ、お前の拙い術で多少の歪みは出た、が…。私はさっきまだ、人間と言ったが、如何せん不安定だ。お前が歪みの原因だからな。ちゃんとした人間に成りたいなら、それも良い。下界に影響が出るなら私が直してやろう。それとも記憶を取り戻したいか?」

『あああ…』
青藍が悲痛な声でまたも項垂れる。

また要らない事を!!と思ってるんだろうな。

-確かに、余りにもアバウトだ。こんな適当で良いのかな?と私でも思う。

「ちゃんと人間に、成れるんですか?と、言うかそれで良いんですか?」


「うん、成れるよ。それに、成りたいなら仕方ないしな。」

『あああああ!!』
青藍がまたも悲痛な叫び声を上げた。

「あっさり、ですね」
「風の気質だな。気の向くままに、だ。それにお前が望むなら良いのでは無いか?」